スペシャルインタビュー

伝統を受け継ぎ、子どもたちの感性・知性を養う教育を実践する「日本女子大学附属豊明小学校」

創立者であり、日本の女子高等教育の先駆者でもある成瀬仁蔵の建学の精神の下、長年に渡る歴史を刻んできた「日本女子大学」。この精神を受け継ぎ、日々子どもたちへの指導・実践に取り組むのが、目白通り沿い、大学の向かい側に位置する「日本女子大学附属豊明小学校」だ。感性を刺激するユニークな造りが印象的な校舎をはじめ、充実した設備と丁寧な教員の指導など、子どもたちが主体的に活動に取り組める環境が整えられている。
今回は小学校の山口校長先生に、小学校の概要や教育活動の特徴、保護者や地域との連携などについてお話を伺った。

「日本女子大学附属豊明小学校」の山口校長先生
「日本女子大学附属豊明小学校」の山口校長先生

――まずは小学校の概要について教えてください。

山口校長:本校は「日本女子大学」の附属小学校にあたり、学校法人として受け継がれてきた、信念徹底・自発創生・共同奉仕の三綱領の精神をもって教育活動に取り組んでいます。小学校のすぐ隣には附属幼稚園、目白通りの向かい側には大学もあり、幼稚園から大学までの一貫教育を実践しています。2020(令和2)年2月現在、全校児童数は約700名、各学年3クラスずつの編成です。
授業の特徴としては、1年生の時から、音楽、図工、体育等については専科の教員が担当するという形をとっております。そのため、担任を持たない専科の教員も含めると、1学年当たり約8~13名の教員が関わっていることになります。読書、お習字、英語、情報といった専門科目もある上に、クラスは各学年3クラスといったところから、教員数の充実ぶり、多さは感じていただけるかと思います。

「日本女子大学附属豊明小学校」正門
「日本女子大学附属豊明小学校」正門

――小学生のうちから幅広い教養を身に着けることができる訳ですね。ちなみに、「読書」が科目になっているというお話がありましたが、こちらはどのような授業なのでしょうか?

山口校長:1年生の時は図書室で担任が読み聞かせをすることが多いです。2年生以上になると、読書の専科の教員が国語の授業の内容に合わせて、同じ作者の作品を紹介したり、調べものの取り組み方や辞書の引き方を紹介したりしています。情報処理も含めた形で、調べた内容をまとめて発表することもあります。

――授業だけでなく、校舎の造りもユニークに感じます。やわらかで温かい雰囲気のある、素敵な校舎ですね。

山口校長:ありがとうございます。改築から今年で20年目を迎えるこの校舎は、本校の建学の精神を形にしたものでもあります。本校の信念には、先ほど申し上げた、信念徹底・自発創生・共同奉仕の3つがありますが、これは小学生にとっては少々難しい概念ですので、校舎の中にそれを表すことで、興味・関心を引き出したり、物事に一生懸命取り組める空間であったりと、子どもたちの感性から働きかけられるよう、教員みんなで話し合って考えられた校舎になります。

子どもたちの感性を養う木造の階段。自然の光も充分に入り開放感がある
子どもたちの感性を養う木造の階段。自然の光も充分に入り開放感がある

本校は目白台の端、台地上に位置し、自然が身近な立地です。早稲田や新宿方面が一望できる上、窓から緑、風、光などが自然に入ってくるように工夫もされています。
自然が身近という点では、本校が大切にしている「実物教育」に結びつく部分もあります。中に入ってしまうとまるで本当に森の中にいるような感覚になれる「崖下教材園」と呼ばれる植物園があり、こちらも本校の特色のひとつになっています。

――図書室は、円形のデザインが印象的ですね!

山口校長:そうですね。本校は図書室が校舎のほぼ中央に位置し、蔵書数もとても多い学校なんですよ。上級生になると、休み時間に自由に図書室に入れるようになりますので、子どもたちからとても人気のある、大好きな場所になっているようです。丸い造りの図書室には真ん中には吹き抜けがあり、らせん階段で2階とつながっています。2階は主に調べものがメインになるような棲み分けになっています。空間が円形なことから、ドアも様々な方向にあり、学校中どこからでも、必要な時にぱっと来られるような形になっています。

図書館の2階部分
図書館の2階部分

――温水プールもあるそうですね。

山口校長:はい。屋内・温水ですので、1年を通してプールの授業を実施しています。床が上下する仕様になっており、低学年の時には水深を浅く、高学年の時には深く、ということが可能です。

――学校行事もユニークなものが多いそうですね。特徴的なものをぜひご紹介ください。

山口校長:特徴のひとつとして挙げられるのは、2月の「告別記念講演」でしょうか。これは、本校創立者の成瀬仁蔵が、自身があまり長く生きられないとなった時に開いた講演に由来があります。実は本校の三綱領もそこでのお話がもとになって生まれているんです。
これが建学の精神に立ち返るための大事な行事ということで現在まで受け継がれていまして、毎年同じ時期に「告別記念講演」を実施しています。現在では、卒業生に来ていただいて、お仕事のお話や小学校時代のお話をしていただいています。卒業生の中には狂言や日本舞踊、ピアニストの方などがいらっしゃり、様々な方が様々な業界で活躍していらっしゃるので、普段は聞けないようなお話が聞けるということで、大変好評をいただいています。

様々な年間行事を実施
様々な年間行事を実施

また、本校は縦割り活動を実践していることもあり、「お姉さま」に対する憧れというものを、幼い時から胸に抱いて、大きくなっていく傾向があります。そのお姉さまが、あんなふうにさらに素敵になった、ということが情報として入ってくることで、いい先輩のモデルになってくれていると感じています。

――「豊明会」という、PTAにあたる組織があるそうですね。こちらではどのような活動をされているのでしょうか?

山口校長:豊明会のお仕事としては、学級部、厚生部、新聞部、文化部、財務部、監査部、サポート部というものがあり、保護者の方には、卒業するまでの間に何らかの形で関わっていただきながら、学校生活を支えていただいております。例えば、厚生部ではバザーを企画、文化部では講演会などを実施、新聞部では「豊明」という名前の学校新聞を年に2回発行、といった感じですね。

また、「災害防犯特別対策委員会」というのもあり、防犯・防災に関する取り組みも豊明会の方々と連携して実践しています。
防犯に関しては、本校はほとんどの児童が公共交通機関で電車通学やバス通学をしているため、「その通学途中でもし何かが起こったら」という点が、ご家庭にとっても、学校にとっても心配になります。ですので、周辺の駅から学校まで安全に登校できるよう、見守りの活動にご協力いただいております。

山口校長先生
山口校長先生

防災に関しては、4年生になると災害を想定した宿泊訓練に取り組んでいます。学校に泊まって、寝袋を使ってみたり、非常食を食べたりといったことを体験するのですが、この宿泊訓練のお世話をしてくれているのも、豊明会の災害防犯特別対策委員会なんですね。宿泊訓練を始めて数年後に東日本大震災があり、当日の夜には100名近い子どもが帰宅困難で、学校に泊まる形になりました。しかし訓練を経験していた子どもたちが多かったことがあり非常に落ち着いて過ごしておりました。

「サポート部」は、お父様方の会で、運動会でたくさんのテントを建てる時に活躍していただいたり、「崖下教材園」の落ち葉かきにご協力いただいたりしています。時には子どもたちも参加しながら、家族ぐるみでの大きな行事になっています。

――保護者の方々の協力があって、子どもたちの安心・安全が守られているんですね。

山口校長:そうですね。保護者の方々に加えて、地域の方々も「通学の時間帯に合わせてお散歩をします」と言ってくださる方がいたりと、防犯のために様々な形で協力してくださっています。通常、私学ですと地域と交流というのがなかなか難しい面があるかもしれませんが、本校の場合は地域との関係は深いです。

教室の様子
教室の様子

例えば5、6年生の総合学習の時には、「学校まわりの環境整備をしよう」、「地域のお年寄りと交流をしよう」といった提案が出てくることがありますが、その際には各町会長さんにお声がけをしながら、街の中を歩いてごみ拾いをする活動に一緒に参加いただいたり、町会の呼びかけに応じてくださった方が、学校に遊びに来てくださって、子どもたちと一緒に折り紙やお手玉を楽しんだり、といった姿もあります。3年生の地域学習の際にも、高田氷川神社さん、南蔵院さん、鬼子母神堂さん、椿山荘さん、カテドラルさんなど、地域の様々な施設の方々に温かく迎えていただき、見守っていただいています。

教室と廊下の境界となる開き戸は大きな窓が印象的
教室と廊下の境界となる開き戸は大きな窓が印象的

――小学校の今後の展望はございますか。

山口校長:やはり、「学んだことを自分の中だけで終わらせず、誰かの役に立てる」という点が本校の精神としてありますので、小学生なりに、学んだことを進んで外に発信できる環境を整えていきたい、ということがまずひとつですね。
もうひとつは、本校は私学かつ女の子だけということで、“同質性”が高いんですね。ですから、できる限り多様な、自分とは異なる存在にふれる機会も増やしていきたいと思っています。例えば、海外交流の場面ですね。せっかく留学生がたくさん来ている大学の向かいにありますので、そういった方とふれあえる形や、それとは逆にこちらが海外に行けるような機会もつくっていければ、と考えています。とにかく、様々な文化や考え方にふれられる機会を増やしていきたいですね。

建学の精神を受け継ぎ、伝えていく
建学の精神を受け継ぎ、伝えていく

長い歴史がある学校のため、蓄積の上で精選されたものが残っている学校になっており、「時代によって価値観が変わっても、教育の根底にあるものはそんなに変わらない」ということは、常に感じています。ですから、伝統は大事に受け継ぎながら、新しい取り組みも組み入れつつ、より良い学校にしていきたいと思っております。

――最後に、この地域の魅力について教えてください。

山口校長:私は歩くのが大好きでして、今も毎日駅から歩いて出勤していますが、雑司が谷や早稲田のあたりは、少し脇道に入るだけで雰囲気ががらっと変わって、温かさがあるというか、変遷がありつつも、昔なじみのものがしっかりと残っているような場所があるのが楽しいところですね。
また、住んでいる人もあたたかいですね。山手線の内側にありながら、なにか“人懐っこさ”みたいなものが残っていて、温かさが感じられる街だと思います。

日本女子大学附属豊明小学校
日本女子大学附属豊明小学校

日本女子大学附属豊明小学校

校長 山口博子先生
所在地 :東京都文京区目白台1-16-7
電話番号:03-5981-3800
URL: http://www.jwu.ac.jp/elm.html
※この情報は2020(令和2)年2月時点のものです。