スペシャルインタビュー

時代や街の変遷に合わせ、着実に歩みをすすめる「高田總鎭守氷川神社」

都電荒川線が走る新目白通りの北側には神田川が流れ、この付近は都内でも有数の桜の名所として知られている。その橋を北側に渡ると、閑静な落ち着きある住宅街が広がっており、その街並みの中に佇んでいるのが「高田總鎭守氷川神社」だ。神社の歴史は1,200年以上も前に遡る。ここには、この高田の地名を背負いながら多くの人々の思いを受けとめ、見守ってきてくださった神様が祀られている。
今回は筒井昌和宮司に、神社の由緒や行事、街の歴史や地域との関わりなどについてお話を聞いた。

「高田總鎭守氷川神社」筒井宮司
「高田總鎭守氷川神社」筒井宮司

――まず「高田總鎭守氷川神社」の歴史について教えてください。

今から1,200年近く前の清和(せいわ)天皇の御代(みよ)である、平安時代の貞観(じょうがん)年間にこの地に鎮座されたと伝えられています。この貞観年間には、富士山の噴火や阿蘇山の噴火、陸奥の国の大地震と津波など、いろいろな災害がありました。東日本大震災などの平成の大規模災害や昨今の豪雨災害を体験した私たちは、当時の人々の様々な願いや思いと共感するところが多いのではないでしょうか。

また、今から200年ほど前に、江戸時代に歌川広重が描いたとみられる江戸の図絵がここにありますが、今と同じ場所に氷川の社が描かれておりまして、神田川の周りには“氷川田んぼ”が広がっているのがわかります。氷川様をはじめ、多くの神社の神様の田んぼがあったから、川に「神田」という名が付いたわけですね。江戸時代には、黄金色に輝く稲穂の田がこの周辺に広がっていたのでしょう。

見せていただいた江戸の図絵。左下にある「氷川社」の文字が現在の「高田總鎭守氷川神社」にあたる。
見せていただいた江戸の図絵。左下にある「氷川社」の文字が現在の「高田總鎭守氷川神社」にあたる。

――このエリアは昔から神聖な場所だったのですね。ご祭神についても教えていただけますでしょうか。

氷川様には三柱の神様が祀(まつ)られています。中心になるのは、素戔嗚尊(すさのおのみこと)様です。そして、その奥様にあたる奇稲田姫命(くしなだひめのみこと)様です。有名な八岐大蛇(やまたのおろち)退治の話の中に、奇稲田姫命様の苦難を、素戔嗚尊様がお助けしています。この二柱は夫婦和合と家内安全の神様として知られています。もう一柱は二神の御子孫にあたる神様である大己貴命(おおなむちのみこと)様で、出雲大社(いずものおおやしろ)の主祭神として、また「因幡の白兎(いなばのしろうさぎ)」のお話で皆様も御存じの大国主命(おおくにぬしのみこと)という御神名もお持ちです。

――そういった神様を祀られる中で、神社の年中行事にはどのようなものがありますか?

元日の歳旦祭からその年の大晦日の除夜祭まで多くの祭禮があり、毎月一日・十五日には月次祭(つきなみさい)という御祭禮を斎行しています。そして、江戸時代前期から続く「御奉射祭」(おびしゃさい)という独特の御祭禮も斎行されます。この御祭禮は節分と同様に「鬼を追い払う」意味を持ち、桜の木と枝で作った弓と矢で「鬼」と書かれた的を射て、どぶろくを醸(かも)してお祝いしていた、という記述が残っています。「御奉射祭」は戦後しばらく中断されていましたが、1981(昭和56)年に、私の父(前宮司)と氏子の皆様の篤い思いで再興しました。今では一般の方にも参加していただいており、四半弓(しはんきゅう)という小さな弓を使って、安全に弓を射っていただくことができます。

新たな令和の御代(みよ)となり「御奉射祭」は、2020(令和2)年から天皇誕生日の2月実施に変更いたしました。天皇陛下のお誕生日のお祝いと合わせて、ご神徳をいただきながら斎行してまいります。小さなお子さんも参加できますので、ぜひご家族で神社にお詣りをしていただければと思います。

「高田總鎭守氷川神社」
「高田總鎭守氷川神社」

また、秋には例大祭も斎行しています。正式な大祭日である毎年9月10日には、地域の代表の方々が昇殿し、殿内で祭典を行います。町内の大祭日はその前の土日とし、毎年9月の最初の土日には、各町会の神輿渡御(みこしとぎょ)や神楽殿でのお囃子(はやし)やお神楽が行われます。境内には数軒の露店も出ます。氏子地域には全部で11の町会があり、大人神輿や子ども神輿、山車が巡行します。地域の方には、お祭り好きの方が多くいらっしゃいます。

――街の特徴や変遷については、どのようにお感じですか?

高田の街の特徴のひとつには、学校が多い点が挙げられます。氷川様の氏子地域には「日本女子大学」「学習院大学」「川村学園女子大学」などの大学や小中高の名門学校がたくさんありますし、外国語専門学校などもあります。そういった学校には、校舎を造る際の木の伐採清祓祭や、新校舎の地鎮祭などの形でお伺いをしたり、運動部の必勝祈願や受験生の合格祈願などの御祈祷で皆様に御昇殿いただいています。

また、衛生関係や製薬関係の企業も多いです。大正製薬(株)や白十字(株)などの本社が今もありますし、昔はもっと多くの関係企業がありました。恐らく、ここが地下水が豊富な地域であることが関係しているのではないかと思います。そういう意味では、製本や印刷の工場、染色関係の工場も多くありました。私が子どもの時には、神田川に架かっている曙橋から上流を見ると、友禅流しをしている姿が見られ、その光景は半世紀を過ぎた今でも非常に印象深く残っています。

現在の街の魅力として、適度な変貌がある点が面白いと思います。時代に合わせた街の“新陳代謝”、つまり古きことと新しきことにある程度の入れ替わりがあり、その一方で、昔から変わらない部分も残っている。この神社もお詣りに来られる度に「前にお詣りした時にどこか変わっているな」と思っていただけるような変化を施すようにしています。例えば、このあたりは古くからお住まいの方も多いのですが、そういった方々の中に、境内の御末社をさして「ここに神社があったのですか?」とおっしゃる方がいらっしゃいました。先代の頃の境内には、木も多く、外から御社殿が隠れてしまっていたのです。そこで「境内整備は私の使命のひとつだ」と感じ、整備を行いました。御社殿や社務所の場所はそのままですし、参道も明治時代の航空写真と同じ位置ですが、少しずつ工夫して皆様の御協力のもとにお神輿庫も新しくなり移設できましたし、令和の御大典の記念事業として、境内社の神明神社と道祖神社の周囲に結界・灯篭・お鳥居も新たに付設致しました。そのように、神社も、この街も、時代に合わせて少しずつ変わっていく姿が、地域の魅力のひとつかと思います。

境内の狛犬
境内の狛犬

――今後の目標とする取り組みや、地域にとってこういう存在でありたい、といった展望についてお聞かせいただけますか。

昨年迄の6年間、神社庁役員として島嶼(とうしょ)も含めた東京都の神社全体について考え、多くの方々と話し合う機会をいただきました。現在は外郭団体の副会長を務めておりますが、神社はそれぞれご祭神が違って、一社一社の違いが非常に大きいですから、今後も互いの社の在り方や個性を尊重し合いつつ、神社同士課題を共有して連携していきたいと思います。
この土地に鎮まります神社として、教化活動をすすめ、敬神崇祖の思い、氏子地域の発展と氏子・崇敬者の御健勝を記念し、厳粛に神様に奉仕をして参ります。

社務に関して、昼食の時間帯や先程お話しした月次祭(つきなみさい)の日には御朱印を受けないといったルールを定めました。また、境内の撮影禁止を告知していますが、これらには、神社本来の目的に立ち戻って、本来の神聖な場を守ること、清らかな祭りの場であること、心静かに人々が祈る“祈りの場”であることを意識できる神社にして行きたいという思いを込めています。

境内は静かな“祈りの場”
境内は静かな“祈りの場”

さらに、季節の花や植物、行事のお知らせなど積極的な「文化の掲示」にも取り組んでいきたいです。2020(令和2)年度は神社の境内の花壇を、この地に深い由縁のある山吹の花壇にする計画もありますので、楽しみしていただければと思います。また、「言葉」の持つ力は非常に大切だと思っており、うるわしい言葉、大和言葉の魅力を発信していきたいですね。例えば「縁(えん)がある」ではなくて「縁(えにし)がある」として、言霊(ことだま)を伝えて行きたいと思います。そして、地域や神社のこと、神様のことをより身近に感じていただけるようなお話をさせていただく機会があれば幸いです。

地域の小学校の児童が、街歩きの授業で訪れることもあるのだそう
地域の小学校の児童が、街歩きの授業で訪れることもあるのだそう

日々神社にいると微笑ましい場面も見掛けます。最近ですと、地域の子どもたちが、神社できちんとお祈りをしてくれることですね。近所にある小学校やスポーツクラブに通う途中で立ち寄って、毎回二拝二拍手一拝をして、神様にご挨拶をする子どもたちを見ると、気持ちが和みます。初めて参拝に来られる方は、毎月1日、15日が先程年中行事でお話しした月次祭の御祭禮日・氷川様の縁の日ですから、ぜひその日に来ていただいて、御神前で、心静かにお詣りいただければと思います。

――最後に、これからこの街に住まわれる方に向けて、メッセージをお願いします。

夏越(なごし)の大祓(毎年6月下旬に行われる除災行事)の茅の輪(ちのわ)作りや例大祭の際に御神輿を担ぎ神社に参拝した人たちの接待補助などの行事にボランティアとしてぜひ御協力と御助力をいただきたいと思います。高田の地の神様である氷川様のために、「自分ができることをやろう」という気持ちを持って、参加していただけるようなことがあれば、お声掛けください。
また、境内には「高田姫稲荷神社」もあり、十柱の神様をお祀りしています。2020(令和2)年は「日本書紀」編纂1,300年にあたり、御祭神の中には編纂の中心であります舎人親王(とねりしんのう)様も御鎮座されています。悠久の時に思いを巡らせ、ぜひお詣りください。

筒井様
筒井様

高田總鎭守氷川神社

宮司 筒井昌和さん
所在地:東京都豊島区高田2-2-18
電話番号:03-3971-8649
URL:http://takatasouchinjyu-hikawajinja.tokyo-jinjacho.or.jp/index.html
※この情報は2020(令和2)年2月時点のものです。