イタリアのエスプレッソ文化を竹の塚に。「豊かさ」をテーマに進化し続ける地域密着カフェ「CAFE RICCO」
「竹ノ塚」駅東口を出て徒歩3分ほど、メインストリートの1本北を通る静かな街並みの一角にある「CAFE RICCO」は、竹の塚生まれ・竹の塚育ちの佐藤大介店主が「エスプレッソの魅力を地元に伝えたい」という思いでオープンしたカフェである。
黒い板壁・シンプルな看板という洗練された佇まいは、下町風情が残る商店街の中でひと際目立っている。平日に訪れるのは地元のおじいちゃんおばあちゃん・子ども連れのママなど、地元に暮らす馴染みのお客さんがほとんど。とはいえ、週末になれば感度の高いカフェマニアが遠方からも訪れ、幅広い客層に支えられている。
今回は店主であり生粋の竹の塚っ子でもある佐藤さんに、店の特徴と竹の塚エリアの魅力をお聞きした。
生まれ育った竹の塚に「豊かさ」を伝えたい
――まず、竹の塚にお店を持たれたきっかけを教えてください。
佐藤さん: お店の名前「RICCO」はイタリア語で「豊かな」という意味なのですが、お店を通じて食や文化などの豊かさを知ってもらいたいという思いを込めています。そのため、そういったお店が少ないところに広める気持ちで地元でもある竹の塚を選びました。
――竹の塚に「豊かなもの」を伝えたい、と。
佐藤さん: そうですね。だからよく「竹の塚には珍しいお店だね」と言われます。お店を7年やってきて、常連さんも増えてきた中で、思いのほかそういう「豊かなもの」を求めている方が多いと実感しています。この場所に開いて良かったなと思っています。
――イタリアと同等レベルのエスプレッソが売りということですが、どこかで修行をされたのでしょうか?
実は私10年前までシステムエンジニアをしており、いきなり飲食業に飛び込みました。学生時代に横山千尋さんという日本を代表するバリスタのエスプレッソを飲んで「なんだこのおいしいものは!!」ってすごく感動したんです。
ただ当時は情報系の大学に行っており、当たり前のように情報系の会社に就職をしました。でもずっとあのエスプレッソのことが頭に残っていて、いずれ店をやりたいなと心に秘めていました。
その後イタリアでバール(※)巡りをしたときにそれが再燃し、開業を決意したのが10年前くらいのことです。そこから会社をやめて、バリスタのライセンスを取ってお店を始めました。
(※)「バール」:コーヒーや軽食などを提供する飲食店。
「4つのM」が生み出す豊かなエスプレッソ
――おすすめのメニューを教えてください。
佐藤さん: 一番はやっぱりエスプレッソですね。これを飲んでいただければ、私が言う「豊かさ」の一端を解っていただけると思います。ただ、日本ではやはりエスプレッソのハードルが高いですね。海外、とくにエスプレッソをよく飲むイタリアですと、エスプレッソをさっと飲んでさっと出ていくスタイルなんですが、日本ではそういった光景はあまり見かけません。
ですので私は「おすすめは何ですか?」と聞かれたら、「本当はエスプレッソなんですが、ゆっくりされるのであれば温度を高めに作ってあるカフェラテか、甘みがしっかり感じられるカプチーノがおすすめです」とお答えしています。時間がある時にはラテアートのリクエストにもお応えしています。
――先ほど頂いたエスプレッソ、とても美味しかったです。深みのある苦味と香りの後に、コーヒーを育てた土の豊かな余韻が残りますね。
佐藤さん: そうですよね。エスプレッソは苦いというイメージがありますが、もともとコーヒー豆は果実の種です。しっかり砂糖を入れて飲んでいただけると、苦味だけではない複雑で豊かな風味がわかりやすくなります。
イタリアでは美味しいエスプレッソを抽出するための条件に「クワトロエンメ」という言葉があるのですが、これはイタリア語でMから始まる4つの言葉で、日本語にすると「マシン」「コーヒー豆」「挽き目」「腕」を指します。この4つすべてが揃って初めて美味しいエスプレッソが抽出できるというわけです。
ですので、マシンはイタリア製の業務用を使用しています。コーヒー豆もイタリアで「エスプレッソイタリアーノ認証」を受けたものを使い、グラインダーも無段階で調整ができる専用のものを使っています。エスプレッソマシーンも当然、良いものを使っていて、あとは「腕」ということでバリスタのライセンスを取りました。常に「クワトロエンメ」を意識して「本物のエスプレッソ」をお届けしています。
――都内でもなかなか出会えない、希少なエスプレッソなんですね。
佐藤さん: そうですね。でも、「希少だから最高」という意味ではないです。クワトロエンメを意識した当店のエスプレッソが「イタリアではこれが当たり前のレベル」ということを知ってもらうことが目的だからです。ここでまずイタリアの標準を知っていただき、その上で「ほかでエスプレッソを飲んだらどんな味なんだろう?」と興味を持ってもらえたらそれでいいと思っています。それが本当に豊かなものというものがどういったものかを知るきっかけになるからです。
店内でしか食べられない本格派ワッフル
――フードメニューのおすすめは何ですか?
佐藤さん: 当店は「コーヒーとワッフルのお店」と銘打っていますので、もちろんワッフルですね。ワッフルって、一般的にはテイクアウト前提の甘くてサクッとしたものが主流だと思いますが、当店では本場ベルギーでも店内で皿に盛りつけられたものを楽しむ「ブリュッセルタイプ」を提供しています。
このタイプのワッフルは美味しい瞬間が短いので、店内でしか提供できません。自家製のチョコソースやあんこを使ったデザート系のメニューも人気ですが、化学調味料無添加の生ハムやスモークサーモンを添えた食事系も美味しいですよ。
あらゆる世代に愛される、地域の「ほっとできる場所」になりたい
――お店にはどんなお客さんが訪れていますか?
佐藤さん: 本当に幅広いですね。お一人の方、子連れのママ、ご家族やご友人など。年代も10代の学生さんから、90歳以上のおじいちゃんおばあちゃんまで、いろいろな方が来られます。どちらかといえば女性が多いですが、常連さんは男性も多いです。
――子ども向けのサービスや、配慮されていることなどありましたら教えてください。
佐藤さん: 未就学のお子さんには、ハーフサイズのソフトドリンクをサービスさせて頂いています。ベビーカーでも入りやすいようなレイアウトにしていますし、ベビーフードの持ち込みも大丈夫です。
もうひとつ、イタリアだとこういう「バール」は地域の要(かなめ)になっていることが多いんです。困った時に駆け込めるような場所になっていて。ですので、私も竹の塚の地域でそういう存在になりたいなと思っています。たまに近所の子どもがトイレを借りに来たり、鍵が見つからずにお母さんが帰ってくるまでお店で待っていたりすることもあります。
イタリア代表がエスプレッソなら、日本代表は折り紙
――エスプレッソと同じくらい「折り紙」が店の特色になっているそうですね。なぜ折り紙なのでしょうか?
佐藤さん: 実はこれも「豊かさ」を知ってもらいたいという思いからなんです。イタリアのエスプレッソを日本で正しく伝えることはお店のポリシーのひとつですが、折り紙も日本の文化でありながら「子どもの遊び」のイメージが圧倒的ですよね。
実は、私も5年前までそう思っていた一人なんですが、ある時たまたま図書館で見つけた前川淳さんの著書「本格折り紙」にすっかりハマってしまいました。「子どもの遊び」どころか大人も楽しめる趣味で、しかもアートになるという。
それから「どうしてこんなに楽しくて奥深い日本の文化が広く伝わっていないのだろう」という思いが強くなってきたんですね。海外の人はこの魅力に気がついていて、日本の折り紙に対して「クール」とか「アメージング」という認識なんですけれど、当の日本人は「子どもの遊び」という冷めっぷりなんです。
だからこれはエスプレッソと同じなんじゃないか、じゃあ折り紙も同じように伝えなきゃと思って折り紙のサービスを始めました。ただエスプレッソ同様、あくまでもここが最高ということを示したいのではなく、皆さんが興味を持ってくださればそれだけで嬉しいです。
――大小いろいろな折り紙を折ることができたり、本も揃えられていたりしていらっしゃるので、楽しめそうですね。折り紙を折ると割引サービスもあるとか。
佐藤さん: そうなんです。前川淳さんの著書「本格折り紙」には初級・中級・上級の作品があるのですが、完成させることで初級30円・中級50円・上級150円の割引券を差し上げています。
――店内にある折り紙作品も印象的ですね。
佐藤さん: 私やスタッフ・常連の折り紙作家さんで作っています。店内の展示は季節に合わせて頻繁に変えていますが、展示が縁となって知り合いになった折り紙作家の方もいてますます盛り上がってきているところです。特にバラが一番人気で、多くの方から好評いただいています。実は私はバラが折れないのでスタッフ任せなのですが、対抗心で「悪魔」ばかり折っています。
――「悪魔」ですか?
佐藤さん: そうなんです。実は悪魔って折り紙の中でも難しいもののひとつで、個人的にすごく好きなモチーフなのでいろんなサイズで作品を作っています。この4㎝の紙で折った悪魔はピンセット2本で折りました。
利便性と緑の多さ、そして「人の優しさ」が竹の塚の魅力
――長年竹の塚にお住まいということですが、竹の塚エリアは「住む場所」として、どのような魅力があると思いますか?
佐藤さん: いちばんの魅力は、生活がとても便利だということですね。自転車で買い物に行ける範囲だけでも近くに「マックスバリュ」、駅の反対側に「西友」、ちょっと離れたところには「ライフ」や「サミット」もあります。ドラッグストアや100円均一ショップ・コンビニも多いですし、買い物にはまったく困らないと思います。
しかも図書館や公園などの公共施設や病院なども充実しているので、普段の生活がとても快適です。
地形的にも高低差がほぼ無いところなので、自転車でもベビーカーでも動きやすいです。子どもと一緒に歩いていると声をかけてくださる方も多く、優しさを感じることも多々あります。ですので、特に子育て世帯の方には住みやすいと思います。
子育てに関してもうひとつ言えば、緑の多い公園がとても多いので遊ぶ場所には困らないです。ちょっと行けば「舎人公園」「元渕江公園」といった大きな公園もあります。
――東武伊勢崎線の高架化事業も、2022(令和4)年3月の完了を目指して進んでいるところですが、最近の街の変化についてどのような印象をお持ちですか?
佐藤さん: 駅の東西が高架化でつながることのインパクトは大きいですよね。前までは「踏切を待つのが面倒だから」という理由で行かなかった場所にも、東西がつながればフラッと自由に行きやすくなると思うので、ものすごく大きな変化になると思います。駅前の人の流れも変わると思うので、そこもすごく楽しみですね。
――マンションなども新しくできて、街を歩いている人の層が変わった印象はありますか?
佐藤さん: 街に若い人たちが増えてきたな、という感じはします。近くに文教大学の新しいキャンパス「東京あだちキャンパス」ができた影響もあると思うんですが、今後も特に駅の東側についてはどんどん新しいマンションができていくようなので、もっと若い世代の人が増えていくんでしょうね。
「豊かなもの」がもっと増えていけば、ますます面白い竹の塚に
――将来こんな街になっていけばいいな、という期待があればお聞かせください。
佐藤さん:「豊かなもの」を提供するお店がもっと増えていけばいいなと思っています。当店が本物のエスプレッソを出すように、きちんとした「豊かなもの」を提供することは街をつくる人たちの責務だと思っています。
――そのひとりとして、いま頑張っていらっしゃるのですね。
佐藤さん そうですね。でも、ほかにもそういう方はいらっしゃって、業態は違ってもそういうお店は増えてきていると思います。これからが楽しみです。
――新しく竹の塚に暮らしたいという方に向けて、メッセージをお願いします。
佐藤さん: 竹の塚は、まだまだこれから進化する街です。「古き良き」の部分とこれから増えていくであろう「新しい文化」が混ざり、もっと面白い街になっていくと思います。そのためこれから住む方々には、「私も街づくりに参加しよう」という意識で関わっていただけたら幸いです。
CAFE RICCO
店主 佐藤 大介さん
所在地:東京都足立区竹の塚6-13-3
URL:https://www.cafe-ricco.info/
https://www.facebook.com/cafe.ricco
※この情報は2022(令和4)年2月時点のものです。