70年以上の歴史を持つ喫茶店

喫茶ルオー

1952(昭和27)年に創業、70年以上の歴史を持つ「喫茶ルオー」
1952(昭和27)年に創業、70年以上の歴史を持つ「喫茶ルオー」

美術史に名を残す画家、ジョルジュ・ルオー。東京大学正門前にある「喫茶ルオー」は、ルオーのファンであった画家、森田賢氏が1952(昭和27)年に創業した喫茶店だ。最初は赤門の前に開業し、さまざまな絵画・彫刻コレクションを展示する名画喫茶だった。東大関係者はもちろん、アート愛好家も多く訪れる店だったという。当時の看板メニューは「セイロン風カレー」。そのレシピは現在に至るまで70年以上もの間、変わらずに受け継がれている。

赤門前の店は1979(昭和54)年に幕を閉じ、初代オーナーの右腕として働いていた山下淳一氏がルオーの看板を引き継いだ。山下氏は赤門前から正門前に店を移し、1980(昭和55)年にこの店を開店させた。店構えは変わり、席数も半分ほどに減ったが、テーブルやチェアなどの什器はすべて旧店舗から受け継ぎ、大切に使い続けている。

壁にはさまざまな絵画が掛かり、心地よく過ごせる店内
壁にはさまざまな絵画が掛かり、心地よく過ごせる店内

正門を出て横断歩道を渡ると、左手にルオーの看板が目に入る。ドアを引いて中に入ると一瞬スパイシーな香りを感じる。細長い店内にはテーブルが並び、壁にはさまざまな絵画が掛かっている。一番奥には窓付きの4人掛け席。これが特等席だろう。店内は清潔に保たれており、誰もが心地よく過ごせる。

2代目店舗とはいえ、すでに開店からは40年以上が経っている。昔は瑞々しかったであろうテーブルやチェアも、人々に触れられ、何万回も布で拭かれ、良い具合に艶めいている。旧店舗以上の長い歴史を経た「正門前ルオー」は、今や立派な純喫茶の貫禄だ。

ところが、「いらっしゃいませ」と迎え入れてくれた声は、意外にも若かった。現在この店を任されているのは、山下店主の息子さんである山下栄介さん。未来のルオーの主である。フレンドリーなスタッフさんとともに、さりげなくも無駄の無い身捌きで満席の店内を切り盛りする。余計な干渉をせずとも、気配りと目配りは欠かさない。この辺りのバランスの良さが、訪れる人々を心地よくする。

初代が名付けた「セイロン風カレー」
初代が名付けた「セイロン風カレー」

そうして待つこと数分で、例の「セイロン風カレー」は運ばれてくる。福神漬け、ラッキョウとともにデミサイズのコーヒーが付くのが、ルオーの伝統だ。小麦粉を含まないインド本国のカレーに対し、当時のセイロン、現在のスリランカはかつて英国植民地であったことから、小麦粉を加えて「ルウ」から作るのが欧風とされた70年前、初代はこのカレーを「セイロン風」と名付けたという。元々は初代の奥様が考案したレシピで、それを連綿と受け継いでいる。

今となってはスタンダードなルウカレーだが、キリッと締まったスパイスのブレンドは一線級。これが70年以上前に考案されたことは驚きだ。福神漬けとラッキョウとの相性も抜群に良い。かつての東大生がこのカレーを食し、「変わってないね、懐かしいね」と話す姿もよく目にするという。

昔ながらのレシピですべて手作りのコーヒーゼリー
昔ながらのレシピですべて手作りのコーヒーゼリー

アイスクリームやコーヒーゼリーもすべて一から手作りし、レシピは昔から変えていない。コーヒー豆も当初からの付き合いの店にオーダーしている。今なら同等以上のものを簡単に手に入れられそうなものだが、それをしないのは「ルオー」のプライド。最初から良いものを出し、それにファンが付いているのではれば、「変えない」ことこそが最高のサービスなのである。

つねに進化を続け、変わり続けることで社会は進化してきた。しかし、普遍的な良さを持つものは、「変わらない」ことでも価値を増すことができる。「喫茶ルオー」はそれを体現している喫茶店だろう。代替わりもうまくいっているようで、これからも末長く、この味と空間を提供してくれると期待したい。

喫茶ルオー
所在地:東京都文京区本郷6-1-14 
https://www.instagram.com/kissa_rouault/

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