スペシャルインタビュー

伝統を受け継ぎ、新たな取り組みも実践する「世田谷区立山崎小学校」

小田急小田原線の「梅ヶ丘」駅を降り、南側に広がる「梅丘商店街」を抜けて閑静な住宅街を進んでいったところに「世田谷区立山崎小学校」は位置しています。今回は校長の小池慎一先生に、伝統的な取り組みである「舟形交流」や「和紙作り」、子供たちの様々な力を養う新しい取り組みなどについてお話を伺いました。

世田谷区立山崎小学校
世田谷区立山崎小学校

――まずは、「世田谷区立山崎小学校」の歴史と概要について教えてください。

小池校長:本校の開校は1941(昭和16)年、今年で創立79年です。昔からこの場所にあって、広さもほぼ変わっていません。本年度の児童数は合計356名となっています。

山崎という名前は、当時この辺りの字(あざ)が「山崎」だったことが由来です。隣にある世田谷中学校も当初は「山崎中学校」だったそうですが、合併した際に「世田谷中学校」に改名されました。「梅ヶ丘」駅ができたときに街の名前に「梅ヶ丘」に変わったため、地域全体を見回しても、唯一この学校の名前だけに「山崎」の地名が残っています。そういう意味で、由緒正しい小学校と言いますか、昔からあるものを大事に残している学校だと思っています。

傾聴力や表現力を養う独自の取り組み

――教育目標と、力を入れている活動について教えてください。

小池校長:学校教育目標は「思いやりのある子ども」「たくましい子ども」「よく考える子ども」の三本柱で、それをもとに重点目標として「人を大切にする、物を大切にする」「健康な身体を作るために考えて行動する」「よく考えて表現する」という言葉を掲げています。

ひとつ目の「人を大切にする」に関しては、「朝会スピーチ」が本校独自の取り組みとしてあります。全校朝会の時に6年生がスピーチするというものですが、人の話を聞くことは、目に見える思いやりなんです。この朝会スピーチには、自分の考えを話すという表現力の部分だけではなく、「人の話をていねいに聞く」という意味もあって、一昨年から積極的に取り組んでいます。

広々とした体育館
広々とした体育館

――無意識のうちに傾聴力が育まれ、思いやりの心につながるんですね。2番目の身体の部分についてはいかがでしょうか?

小池校長:昨年からの取組みとして、運動会を3つに分けて開催しています。通常、運動会では競技も団体演技も一緒に行うため、どうしても練習が団体演技に偏ってしまう傾向があるんですね。そうではなく、かけっこの時はちゃんとかけっこをやろう、しっかり準備をして本番に臨もう、ということで、運動会の内容からかけっこ系の種目と縄跳びを抜き取って、秋と冬に移動しました。

名称も新たに「スポーツ祭り春」「スポーツ祭り秋」「スポーツ祭り冬」としました。昨秋には明治大学競争部の監督さんを招いて指導していただき、それをもとに体育の授業の中でかけっこの練習をして、スポーツ祭りに臨みました。準備を怠らずその時間を精一杯大事にするということは、あらゆる分野で大事なことだと思うんです。今後もこの分割した形は続けていきたいと考えています。

山崎小学校の学校教育目標
山崎小学校の学校教育目標

――3つ目の「表現」に関してはいかがですか?

小池校長:ユニークなのは4、5、6年の取り組みで、昨年から「ビブリオバトル」を始めました。自分の好きな本についてほかの児童の前でプレゼンをして、「いちばん面白そう」「この本を読みたい」という基準で競うというものです。まず班単位でやって、次はクラスでやって、最後に学年ナンバーワンを決めて、ナンバーワンの子は全校朝会でそのプレゼンをする、ということをやっています。

――子どもたちの本に対する意識も変わりましたか?

小池校長:「本の読み方」が変わりました。「何がこの本の面白さなんだろう」ということを考えながら読むので思考も深まりますし、それをわかりやすく面白く表現する力も身についていきます。

校内の図書館
校内の図書館

伝統の「舟形交流」と「和紙作り」

――30年以上前から続く「舟形交流」と「和紙作り」があるそうですが、詳しく教えてください。

小池校長:「舟形交流」というのは、山形県の舟形町にある小学校と区内の小学校が交流をするという取り組みです。1987(昭和62)年に「舟形町立長沢小学校」と交流をはじめ、舟形町の小学校の統合に伴い、今は「舟形町立舟形小学校」と交流しています。

舟形町内の長沢地区にはもともと「長沢和紙」があったのですが、当時すでにほとんど廃れてしまった状況でした。工房はあっても、実際に作られていないような状態だったそうです。そこで、こちらでそれを再現しようという話になり、本校内に「伝統工芸室」という部屋が作られ、授業の中に「和紙づくり」が導入されました。

山崎小学校の「伝統工芸室」
山崎小学校の「伝統工芸室」

――全学年で和紙作りに取り組んでいるそうですね。

小池校長:まず1年生が入学すると、2年生が和紙のハガキ作りを教えて、3年生は比較的自由に作品作りをします。4年生がすごいんですよ。和紙の原料となる楮(こうぞ)の木を刈るところからやるんです。

伝統工芸室の脇にある楮の木を刈ったものをしばらく干して、蒸して皮を剥いてゴミを取って叩いて、和紙のもとを作る。それを漉(す)いて乾燥させて、ようやく和紙になるわけですが、この一連の工程を、4年生ではすべて行っています。

和紙づくりの集大成と言えるのが、卒業証書です。本校では自分の卒業証書は自分で漉く、というのが伝統になっています。

楮(こうぞ)のサンプル
楮(こうぞ)のサンプル

和紙で作られた卒業証書
和紙で作られた卒業証書

――5年生が抜けていますが、何をするのでしょうか?

小池校長:5年生は和紙作りはせず、舟形に行きます。今はコロナ禍で中断していますが、夏休みに舟形に行って2泊3日のホームステイをしていました。秋には逆に、向こうの5年生がこちらに来る。そんな交流もずっと続いています。

お互いの街で歓迎し合う、あたたかい光景がある

――滞在先の舟形町で、子どもたちはどんな体験をしているのでしょうか?

小池校長:川遊びを楽しんで、アユのつかみ取りをしてそれを焼いて、尾花沢のスイカと一緒に食べ……。最高に美味しくて楽しい、昔ながらの夏休みを体験します。

それから、山形の花笠音頭を現地の方から教わります。その前段階として3年生のときに花笠音頭の「女踊り」を春のスポーツ祭りで踊っていまして、それを覚えたうえで、5年生になって現地に行って「男踊り」も教わってくる、という形になっています。

花笠
花笠

――舟形小学校の子どもたちは、東京に滞在して何をするのでしょうか?

小池校長:ホームステイをして東京の暮らしを体験してもらっています。彼らにとっては、家の玄関までエレベーターで行くとか、家が狭いとか、家と家が密集しているとか、そういったことも新鮮な体験なんです。子どもたち同士でツアーのように見どころを回ったり、ステイ先の家族と一緒に街でちょっと珍しい食べ物を食べてみたり、東京の生活を楽しんでもらっています。

ありがたいのは、舟形に行くと駅に「ようこそ山崎小学校」という横断幕で迎えていただいたり、梅ヶ丘でも街ぐるみで歓迎してくれていて、子どもたちが着くと商店街にアナウンスが流れて、「よく来たね」なんて声もかけたりしてくれるんですよ。本当に良い交流が続いていて、素敵だなと思います。

山形から贈られたひょうたん飾り
山形から贈られたひょうたん飾り

舟形小学校との交流の様子
舟形小学校との交流の様子

6年生から5年生へと受け継がれていく「山崎太鼓」の伝統

――舟形交流から生まれた「山崎太鼓」があるそうですね。これはどのようなものでしょうか?

小池校長:向こうには伝統的に「長沢太鼓」というものがあって、それをもとに、少しリズムをアレンジして、今から30年前、山崎小学校50周年の時に新しく作ったのが「山崎太鼓」です。春のスポーツ祭り、夏の町内会の催し、羽根木の梅まつりの時に披露しています。

代々6年生から5年生にその叩き方が伝えられていて、いまの6年生は「30代目山崎太鼓」ということになりますが、偶然にも現PTA会長が初代山崎太鼓の方だったり、教員の中にも卒業生がいたりして、まさに脈々と受け継がれているなと感じます。

「山崎太鼓」で使用する和太鼓
「山崎太鼓」で使用する和太鼓

6年生は自分たちで実行委員を作って、休みの時間に何度も練習をしながら直接5年生に技術を教えています。最後のお別れのときに行うバトンタッチの儀式では、6年生の表情が「やり切った」という誇りにあふれていて、本当に素晴らしいんです。ある意味、卒業式よりも感動する瞬間ですね。

小規模校ならではの「わたしの先生」「自分の教え子」という意識

――小規模な学校だけに、先生と子どもたちの距離感も近いかと思います。指導上の工夫や、子どもたちの様子を教えてください。

小池校長:本校は児童数も、先生たちも人数が少ないですから、学年やクラスが違うことによる「壁」は低いです。「同じ山崎の子」という意識がとても強いと思います。もちろん、我々教員も児童全員を「山崎の子」という意識で見ていますから、そこがいちばん大きな特徴であり、小規模校のメリットだと思います。

その特徴をより生かすために昨年から始めたのが、3年生以上の教科担任制です。新たに、社会と理科は先生が入れ替わって教えるという形を取り入れました。教科担任制にすることで違うクラスの先生も子どもにとっては「わたしの先生」になりますし、先生から見ても「隣のクラスの子」ではなく「自分の教え子」になるわけです。

生徒や先生が行き交う廊下
生徒や先生が行き交う廊下

子どもたちも、学年を超えてとても仲が良く、別の学年の子が遠足から帰ってくれば、窓を開けてみんなで「おかえりー!」と手を降るような光景もあります。こういう距離感の近さは、都会の小学校では珍しいと思いますね。

――最後に、世田谷代田・梅ヶ丘エリアの生活環境の魅力を教えてください。

小池校長:一言で言うなら、「落ち着いている街」ですね。都会のぎすぎすした感じがまったくなくて、あたたかく子どもを見守ってくれる街だと思います。だから子どもたちも、大人たちをすごく信頼しているんですね。シンプルですが、素晴らしいことだと思っています。

たとえば、これだけの住宅地で、太鼓で雷のような大きな音を響かせていても、一切クレームが入ることが無いんです。これも、小学校が街に溶け込んでいる証拠だと思いますし、一朝一夕にはできない、熟成した街だからこそのものだと思っています。学校としても、本当にありがたい限りですね。

世田谷区立山崎小学校
世田谷区立山崎小学校

世田谷区立山崎小学校

校長 小池慎一先生
所在地:東京都世田谷区梅丘3-9-1
電話番号:03-3420-7341
URL:https://school.setagaya.ed.jp/yaki/
※この情報は2021(令和3)年4月時点のものです。