誰のこともひとりぼっちにしない。子育てしながら働きたい女性を支援する「すごしばハニカム」

小平市花小金井には、働くママを一貫して支援し続ける人がいる。2021(令和3)年4月に同エリアにオープンした「すごしばハニカム」の代表、川里富美さんだ。ハンドメイドの作家を支援する「ライオンハウス」の代表でもあり、小平市の市議会議員も務める川里さんに、事業への想いや街の魅力についてお話を伺った。

川里富美さん
川里富美さん

キッズスペース、キッチン、サロンの機能を併せ持った施設

——「すごしばハニカム」はさまざまな機能を持つ複合施設ですが、具体的にどんな場所か教えていただけますか。

川里さん:店の入り口から奥に向かってシェアキッチン、キッズスペース、シェアサロンの3つがあります。
シェアキッチンは毎週水曜から土曜まで「ハナコラボ」さんがクレープ出店し、日・月・火曜日はクッキング教室やキッズ向けのスクールに使っています。キッズスペースは会員制で、20時までお預かりしています。

以前設けていたコワーキングスペースはなくしましたが、バーチャルオフィス機能は現在もあり、自宅住所を公開したくない人のための登記や貸しロッカーなどのサービスは引き続きご利用いただけます。さらにシェアサロンの中にホワイトボードなどを置いてセミナールームとして使えるようにしました。

ママ向けの起業支援塾や子どもの一時保育など公的なサービスもありますが、それぞれ別の場所で提供されているんですよね。バラバラだとハシゴしなきゃいけないし、それぞれの情報を得るのは大変です。だからここでは1カ所で複数の用事を済ませられるようにしています。

シェアキッチン
シェアキッチン

川里さん:また、月に1回、大人も子どもも利用できる「ハニカムだれでも食堂」を開いています。大人は300円、子どもは大学生まで無料です。

日本ではこういった取り組みは無償のボランティアが前提なので資金繰りが大変ですが、うちは提携している店に専用メニューを用意してもらい、それを注文すると代金の一部が「すごしばハニカム」に入るようにしています。メニュー料金に、あらかじめ寄付分を上乗せしているんです。そうやって集めた寄付金を食堂の運転資金にしています。

持ち出しで一時的な対応をするよりも、長く続けられるように、必要な資金を皆さんにも負担いただきながら運営しています。

シェアサロンの一角は、セミナールームとして使える
シェアサロンの一角は、セミナールームとして使える

わたし自身が、仕事から帰ってきて、子どもにガミガミ言うのが嫌だった。帰宅前に親子でひと息つける場所にしたい

——色々なことをされてるのですね。どのような想いや経緯で「すごしばハニカム」を開業されたのでしょうか。

川里さん:わたしは、子どもが幼稚園に入ったときに、編集やデザインを行う制作会社を辞めて独立をしました。その頃、ママ友の中に、産休の間にアロマやベビーマッサージを習って資格を取り、いずれ資格を活かして仕事にしたいと言う方が多くいたんです。同時に、起業する方法が分からないという声が多かったので、わたしがワンディカルチャースクールを企画実行し、その先に、起業支援サービスとして自分の経験を活かしながらホームページや名刺の制作などを請け負うことにしたんです。やがて仕事が増えたのでこのビル内に部屋を借り、ボディサロンを経営しながら創業支援をしていました。

学習塾だったこの部屋が居抜きで貸し出されたのを機に、ここを借り、「すごしばハニカム」を始めました。
当初用意したのはキッズスペース、コワーキングスペース、シェアサロンの3つ。

わたし自身が、仕事から帰ってきて毎日子どもに「早くごはんを食べなさい」ってガミガミ言うのが嫌だったんですよね。帰宅前に立ち寄ってひと息つける場所があれば、ママも少しは家でゆとりを持てるんじゃないかなという思い、また、学校や塾を終えた子どもが親の帰宅までひとりになってしまうことも気になったので、子どもの預かり事業もと考え、この「居場所」をつくりました。

キッズスペースのおもちゃ
キッズスペースのおもちゃ

川里さん:「ハニカム」という名前は、「大事な人」を意味する「ハニー」と「Come」から付けました。「誰でも来ていい場所」「気軽においで」ということです。さまざまな機能を併せ持つことで、丈夫な構造を持つハニカム(ミツバチの巣)のように頼れる存在にしたいという願いも込めました。
「すごしば」は、家に帰る前にひととき「過ごす場所」という意味で付けました。シェアサロンも起業を応援するためのもので、慣れて自信が付いたらみなさん卒業していく「通り過ぎる場」です。

「誰のこともひとりぼっちにしない」がすべての活動の原点

——どんな方がどんな風に利用されているのでしょうか。この場所の役割についてどう感じられていますか。

川里さん:入り口付近には雑貨が並んでいますが、あの棚はこの地域で活動されているハンドメイド作家さんにレンタルしていて、作品を販売しています。
キッズスペースにお子さんを預けているのは働くママ。シェアサロンは、いずれはネイルやボディケアなどの仕事で独立したいと考えている未来の起業家が利用されています。

外から見ると何の施設かわかりにくいのですが、ここは、「大切なあなた」が「気軽に」「ひとときを過ごす場所」として利用できる場所です。ぜひ気軽にのぞいてみて欲しいです。クレープ目当てに入ってきて、他のサービスを知り、後日エステを受けに来たり、子どもを預けたりなど、利用の幅を広げて下さる方が多いです。

「すごしばハニカム」外観
「すごしばハニカム」外観

——川里さんは「すごしばハニカム」の他にも、ハンドメイド作家を支援するイベント「みんなデパート」開催などさまざまな活動をされていますが、活動の根底にはどんな思いがあるのでしょうか。

川里さん:もう15年以上前になりますが、近くに住んでいるシングルマザーが小さい子どもを残して自ら命を絶つという悲しい出来事がありました。
当時よく集まっていたママサークル仲間の一人がその方と知り合いで、サークルに呼べないかという話をしていたところでした。わたし自身も子育てが苦しい時期だったので、「どうしてもっと早く誘わなかったんだろう」と激しく後悔しました。二度とこんなことが起きないよう、「自分はひとりぼっちだ」と感じる人をなくしたいと強く思いました。誰のこともひとりぼっちにしない。それがすべての活動の原点です。

カフェスペース
カフェスペース

川里さん:テレワークの推進や起業支援も、社会から分断されて働けなくなって「わたしはひとりぼっちなんだ」と絶望してほしくなくて始めました。ずっと家庭で子育てをしていた主婦がまとまった起業資金を用意するのは難しいですよね。でも適切なサポートを利用すれば、開業資金や場所代を低額で抑えられるし、経験者からアドバイスをもらえます。そのことをみなさんに知ってほしいです。

ここは、子どもからお年寄りまで安心して腰を据えて暮らせる街

「杏’s Cafe」
「杏’s Cafe」

——さまざまな活動を通して感じる、小平市や花小金井の地域の魅力を教えてください。

川里さん:すごくいい場所です!
わたしは結婚を機に花小金井に引っ越してきたんですけど、ここが大好きで、勝手に花小金井大使を名乗っているくらいです(笑)。全部ここにあるので、わざわざ時間とお金をかけて都心に出る必要がないんです。魅力のひとつは個人店が多いこと。「杏’s Cafe」などおしゃれなカフェがいっぱいあるんですよ。

しかも、子どもを持つ女性が起業したお店が多く、みんな上手に経営しているのがすごいと思います。そういう賢くてパワフルな女性が多い街でもありますね。

「ゆりかごから墓場まで」じゃないですけど、花小金井は子どもからお年寄りまで快適に暮らせる場所で、病院やクリニックも充実しています。地域の中核病院である「公立昭和病院」では小児科や産婦人科から脳神経外科まで幅広い診療をしていて、日本に3台しかない手術支援ロボット「ダヴィンチ」もあって最先端医療にも対応しています。安心して腰を据えて暮らせます。

あと、小平市にはホッと一息つけるような寺社仏閣が点在しています。例えばこの近くにある「泉蔵院」という古いお寺の庭はとても風情があって、桜の季節は枝垂れから八重まで見事です。駅の近くにも「圓成院」という立派なお寺があって、曼殊沙華がキレイです。近くの「りんどう幼稚園」や「花小金井愛育園」を運営しています。

「泉蔵院」
「泉蔵院」

——花小金井の子育て環境について教えてください。

川里さん:近年は子育て世帯がすごく増えています。ファミリー層の人口増加で保育園が足りず、小平市は2年前まで待機児童の数が東京都ワーストワンだったんですよ。
その後すごい勢いで保育園を新設し、今は保育園だらけで待機児童ゼロとなりました。

小平市は施設の種類も数も多く、選択肢も豊富です。幼稚園に行くか保育園に行くか、0歳から預けるか3歳から預けるか、通勤途中に送迎しやすい駅近の園か家から近い住宅街の園か、そういう選択肢があるところって意外に少ないんですよ。幼稚園でも保育園並みに預かってくれるところが増えていますし、バレエ、体操、サッカーなどの教室をやっているところも多く、そういう園だと習い事が終わるまで預けっぱなしにできます。

学童保育についても、小平市は働いていない人の子どもでも受け入れを断らないという方針です。もちろん学童クラブの数も増やしていて、一昨年からは民設民営も始まりました。その特徴は、延長保育時間があり、中で習い事ができ、その他に特色があること。すでに花小金井には5つあり、条件をクリアすれば公設の学童クラブと同じ金額で預けられます。民設民営、公設公営、公設民営、どれもそれぞれの良さがあります。ご家庭に合ったところを選んでほしいですね。

花小金井には遊び、学び、癒しのすべてがあり、遠出する必要がない

——子どもたちの遊び場や、休日に家族で出かけたいおすすめの場所があれば教えてください。

川里さん:広大な「小金井公園」はもちろん、境湖・多摩湖から三鷹・吉祥寺まで延びる「狭山・境緑道」沿いの公園も魅力的です。花小金井周辺だと「たけのこ公園」と「東部公園」ですね。
「たけのこ公園」では申請すれば無料でバーベキューができるんですよ。

「東部公園」はちょっと遊具があるだけのだだっ広い場所ですが、だからこそ遊び勝手がいいんですよね。わたしの子どもはこの場所に育ててもらったようなものです。その恩があるので今はここでイベントも行っています。3,000~5,000人規模のイベントも可能ですよ。

子どもが小さい頃は「井の頭公園」にもよく行っていました。この辺のママはみんな行っているんじゃないでしょうか。ここから吉祥寺までは自転車で30分くらい。「狭山・境緑道」のサイクリングロードを走っていけばたどり着きます。道もずっと平らだし気持ちよく走れます。桜の季節は遠くから来る人もいるくらいキレイですよ。

「東部公園」
「東部公園」

川里さん:知的好奇心が刺激される面白い博物館もあります。
東京ガスが運営している「ガスミュージアム」は、明治時代に建てられたレンガ造りの社屋を移設・復元した建物が立派です。ブリヂストンの旧東京工場を整備してつくられたイノベーション施設「Bridgestone Innovation Park」、日本で唯一、本物の下水道管の中に入れる「小平市ふれあい下水道館」もあります。しかも全部、入館料無料です。

公園もそうですし、この辺はお金を使わずに楽しめるところが多いです。この近くには体験型ミュージアム「多摩六都科学館」もあります。有料ですが、最も多くの星を投影することでギネスにも認定されたプラネタリウムがある立派な施設です。

すぐそこには天然温泉が楽しめる「お風呂の王様」があるし、西部まで足をのばせば源泉かけ流しのお風呂がある「テルメ小川」があります。花小金井には遊び、学び、癒しのすべてがあるので、遠出する必要がないんです!

「ガスミュージアム」
「ガスミュージアム」

——「すごしばハニカム」や花小金井エリアでの活動について、今後の展開をお聞かせください。

川里さん:募集すると毎回申し込みがあるので、大人向けのワークショップを増やしたいなと思っています。ハンドメイドの作家や講師になりたい人、地元で何かしたい人がいるならサポートしたいですからね。

あと、会費に夕食代を加え、キッズスペースに来る子どもたちに毎日夕食を提供したいです。そもそもキッチンを作ったのはそのためなので。仕事を終えた親御さんが迎えに来たときには子どもの夕飯は終わっている。なんなら宿題も終わっているという状況を作れたらいいなと!自分の店を持つ前に料理の仕込みだけ修行したいという人がいれば、シェアキッチンでお惣菜を作って販売してもらうことも考えています。そうしたら子どもを迎えに来たママが買って帰れますから。

——最後に、これからこのエリアに住まわれる方々に向けて一言お願いいたします!

川里さん:電車に乗れば20分程度で新宿まで行ける便利さがある一方で、「花小金井」駅から少し歩けば畑もいっぱいあるのどかな場所。「サニー農園」といって芋掘り体験ができるところもありますよ。

都心で働いていると、夕飯も会社の近くで済ませたりして地元についてろくに知らず、休日にわざわざ遠出したりする人がけっこういます。でも花小金井は魅力的なスポットだらけです。引っ越してきたらぜひ近くを見てまわってください。花小金井に住んで後悔することは絶対ないと思います!

——インタビューを終えて
パワフルに様々なことに挑戦し続ける川里さん。活動への熱意と明るい笑顔、細やかな心遣いに、お話をしているだけで自分も前向きな気持ちになりました。常に弱者の味方になってくれる人が同じ街にいる。それだけでもこの街に暮らす価値がありそうです。もちろん、花小金井の街そのものの魅力も存分に感じました。川里さん、ありがとうございました!

すごしばハニカム

代表 川里富美さん
所在地 :東京都小平市花小金井4丁目33-7 カトレアハイツ 1F
電話番号:050-3578-2323
URL:https://www.honeycome-hanaco.com/
※この情報は2023(令和5)年10月時点のものです。