スペシャルインタビュー vol.3

仙川の地図制作を通じて街の魅力を掘り起こす「仙川地図研究所」

都心部への交通アクセスにすぐれ、文化の薫り漂う街並みが人気を集める調布市仙川エリア。「桐朋学園」や「白百合女子大学」のキャンパスがある街としても知られ、学生で賑わう活気ある駅前の商店街や郊外の個性的なカフェ、ギャラリー、国分寺崖線の豊かな自然など、多彩な魅力を併せ持っている。今回は仙川在住のメンバーを中心に活動している市民サークル「仙川地図研究所」に、地図づくりをはじめた経緯や、取材を通じて感じた仙川の街の魅力などについてお話を伺った。

■メンバー紹介
小森葵さん:「仙川地図研究所」発起人の一人。仙川手作り市も主宰している。
笠原真志さん、文代さん:ギャラリー&カフェ「ニワコヤ」を営むご夫妻。1999年より仙川に在住。
わだふみおさん:展示会をきっかけに研究所に参加。まち歩きが好き。
川西ゆうこさん:大阪出身。東京移住をきっかけにまち歩きにはまり、研究所の活動に参加。

写真左から、笠原真志さん、笠原文代さん、小森葵さん、わだふみおさん、川西ゆうこさん
写真左から、笠原真志さん、笠原文代さん、小森葵さん、わだふみおさん、川西ゆうこさん

ギャラリーカフェを運営するご夫婦と地図好き女子との出会い

最新版の「せんがわ地図」
最新版の「せんがわ地図」

――まずは「仙川地図研究所」の発足の経緯についてお教えください

小森葵さん:「仙川地図研究所」のはじまりは、仙川で「ニワコヤ」というギャラリーカフェを運営していた笠原夫婦との出会いがきっかけです。

笠原文代さん:もともと私たちがギャラリーの企画を案内するために月1回「ニワコヤ通信」という二つ折りの印刷物を作っていたのですが、そのなかに「独断と偏見によるご近所お散歩案内」というコーナーを設けて、街の紹介も兼ねて仙川の地図を載せていました。そんなとき、街のミニコミ誌を編集している“あおちゃん”こと小森葵さんと出会ったんです。

小森葵さん:私はグラフィックデザイナーとして活動するかたわら、街のミニコミ誌を編集したり、ローカルニュースを発信する「調布経済新聞」の仙川地区を担当していたこともあり、地域のお店とのつながりを生かした震災復興プロジェクトや「仙川手作り市」の企画など、仙川に根ざした活動をやっていました。
「仙川手作り市」をやるときに「ニワコヤ」にも声をかけさせていただき、それが、徐々にお客さんとお店という関係から、友人的な付き合いへと発展していったんです。

笠原文代さん:私たちも、いつかは広域の地図を作りたいと話していたんです。それで、これも何かのめぐり合わせだということで、2013(平成25)年に「仙川地図研究所」を発足しました。

「まずは仙川のすべての道を歩こう!」フィールドワークからスタート

わだふみおさん
わだふみおさん

――地図をつくるうえでまずは何を手はじめに行ったのですか?

笠原文代さん:最初は仙川の白地図を持って「まずはすべての道を歩こう!」と、フィールドワークするところからはじまりました。

小森葵さん:「あのビニールハウスでは何が育てられているんだろう?」みたいなちょっとした発見も含めて、インターネットには載っていないような情報を拾い集めながら、約半年間をかけて、2014(平成26)年4月1日に初版を発行することができました。どのくらい売れるのかまったく見当もつかず、はじめは1,500部を刷ったのですが、最初の10日間で売り切れたのには驚きました。すぐさま追加で2,000部を刷って、それも半年間で売れ切れてしまいました。

新メンバーの加入で気づく新たな視点

地図を見たりまち歩きをするたびに視点が広がり新たな発見が
地図を見たりまち歩きをするたびに視点が広がり新たな発見が

――地図づくりにはどういったメンバーが携わっているのですか?

小森葵さん:イラストレーターの友人や地図を実際に作ったことのある人など、一緒に制作ができる人を探すところからはじまりました。

笠原真志さん:「ニワコヤ」でも「仙川地図研究所展」をやって、制作を進めていた仙川の作りかけの地図とあおちゃんが持っているヨーロッパの地図のコレクションを展示して活動のPRもしていました。

小森葵さん:メンバーのひとり、わだふみおさんはその展示をたまたま見に来てくださっていて、「活動に参加しませんか?」と声をかけ、参加してくださるようになったんです。その頃にはメンバーはすでに10名ほどになっていて、今は顧問を含めると14名の市民活動サークルになりました。

笠原文代さん:今もメンバーのひとりとして活動してくれている81歳の小室さんは、私たちの知らないひと昔前の仙川についての情報をたくさん持っているので、今ちょうど古地図のようなスケッチを描いてもらっているところです。

「せんがわ地図」がきっかけで引越してきた人も

「せんがわ地図」は主に仙川駅周辺の店舗で取り扱う
「せんがわ地図」は主に仙川駅周辺の店舗で取り扱う

――地図を発行したことによって、どのような反響がありましたか?

笠原真志さん:今こうして活動の輪が広がっているのは、「仙川地図研究所」の取り組みを新聞が取り上げてくれたのも大きく、新聞を購読しているおじいちゃん、おばあちゃんの世代からも多くの反響がありました。

笠原文代さん:初版を発行した頃は、地図を手にした方が「ニワコヤ」に直接訪ねて来ることも多かったです。感想文がお店の看板に突き刺さっていたなんてこともありました。

わだふみおさん:僕のまち歩きの友だちの中には、「仙川地図研究所」で作成した地図を見たのがきっかけで仙川に引越してきた人もいるんです。

小森葵さん:まち歩きする人にとっては高低差もあるし市町村の境界もあるし、すごく魅力的な街なんだなぁということを、地図をつくってみてはじめて気がつきました。まち歩きを趣味にしている人にとって住みたい街の基準はそこなんだって。(笑)

「散歩×○○」“まち歩き”を主軸に置いた地図づくり

笠原真志さん
笠原真志さん

――掲載する情報やお店の選定、地図を制作するうえでの編集方針は?

小森葵さん:仙川の街を歩きまわって欲しい、知らない道を歩いて欲しいという思いがあるので、掲載するお店はまち歩きをしながら途中で立ち寄れるスポットというのをひとつのコンセプトにしてピックアップしました。

笠原真志さん:あとは個人店に限定した点ですね。チェーン店やコンビニは載せていません。まち歩きの途中でコンビニでコーヒーを買うんだったら、個人店でコーヒーを飲んでくださいというメッセージも込めているんです。

とことん話し合い、メンバーみんなが納得するものを作る
とことん話し合い、メンバーみんなが納得するものを作る

調布市というくくりではなく、仙川という街の意識

千歳烏山の地図作成にも協力
千歳烏山の地図作成にも協力

――地図を作るなかで気づいた仙川の地域性や魅力は?

小森葵さん:仙川は多くが調布市に属していますが、住民の感覚としては、調布と言うより仙川に住んでいるという感覚が強いんじゃないかと思います。

仙川はエリアによって調布の人、世田谷の人、三鷹の人、狛江の人とそれぞれ住んでいる人が異なっていて、成城寄りには小田急文化があって京王線との雰囲気も違いますし、駅から北の人は井の頭線の文化もあって、調布に住んでいるというより仙川っていう街のくくりで捉えている人が多いと思います。

笠原文代さん:地図をつくりはじめたときに、仙川をある地方都市として仮定したのを覚えていますが、仙川には観光案内所を開設したとしても、みんなを楽しませる充実のコンテンツがあると思いました。そういう小ネタを紙面に置いたことで仙川住民の方にも、まったく仙川のことを知らない人にも楽しめる地図になったんだと思います。

まちおこしを目的としたものではなく、地図づくりを通じて街を楽しむことが目的

「調布市・崖線樹林地ガイドマップ もりのちず」
「調布市・崖線樹林地ガイドマップ もりのちず」

――まちおこしを兼ねてまち歩きや地図づくりをしているケースもありますが?

笠原文代さん:3人ではじめた活動が市民サークルになって、それを楽しんでいたら結果としてそうなったら良いじゃんくらいの意識でいるので、「まちおこしがんばるぞー!」みたいな雰囲気とはまったく違うんです。

小森葵さん:私もまちおこしをしている感覚はないですね。街を観察して地図にまとめるのが目的。だから研究所という名前にしたんです。

笠原真志さん:仙川はまちおこしをしなくちゃならない状況でもなく、むしろどんどん人気が高まって盛り上がっている場所なので、あたらしい情報を追いかけているだけでも話題が尽きないんです。

川西ゆうこさん:年齢層の高い人が地図を作ると、「かつてはこういう場所でした」「こういうものがありました」という歴史的なところを重視しますが、「せんがわ地図」には新しい情報もたくさん載っているのでまち歩きを趣味にしていない人にも役立つ情報ですし、版を重ねて行くことでどこが変わったのかが見比べられるというのも面白いと思います。

2017(平成29)年10月、活動の拠点となる「ニワコヤ」がリニューアルオープン

地図を手にお店などをめぐる
地図を手にお店などをめぐる

――今後の予定や将来の展望についてお聞かせください

小森葵さん:「仙川地図研究所」の取り組みが知られるようになって、毎年5~6種類の地図や地理情報を使った制作物をあたらしく制作しているんですが、基本的には依頼をいただいた地図を作るということと、自主企画で作る活動と両方続けていきます。
それと、休業中の「ニワコヤ」が、10月にリニューアルするのも大きな出来事で、あたらしい拠点で何ができるかなと今から楽しみです。地図を見ながらみんなでご飯を食べる会じゃないですけど、私たちのミーティングをオープンにして「ニワコヤ」にいっぱい人が集まるのも楽しそうですね。

わだふみおさん:「せんがわ地図」をネタにして、仙川のオリエンテーリングをして地図に親しむみたいなイベントもやってみたいですね。

川西ゆうこさん:2015(平成27)年に開催した「せんがわパン遠足」は好評でしたね。仙川にある9つのパン屋さんと焼き菓子のお店をまち歩きしながらめぐったのですが、いつもはまち歩きなんてしなさそうな女性も多くいました。

パッと開いて情報が見やすい紙媒体にこだわる
パッと開いて情報が見やすい紙媒体にこだわる

――最後に仙川がどんな街になっていくのか、期待も込めた地元の方の思いとしてお聞かせください。

笠原文代さん:緑はこれ以上減らないでと思う一方、薄暗くて怖かったから綺麗になって良かったみたいないろんな意見もあって、街にはやっぱり住む人によっていろんな意見や考えがありますよね。あと駅前の商店街には、私たちが引越してきた10数年前は個人店がいっぱいあったのに、だんだんと減ってきてしまっているのは、ちょっと寂しいですね。

わだふみおさん:個人店が無くなるのは確かに寂しいし、緑が無くなっていくのも寂しい。でも街は街として動き続けていくものなので、チェーン店がひしめく商店街の様相も含めてなるようになっていくんだと思います。

小森葵さん:私は、仙川がありきたりな街にはなって欲しくないというのはあります。だからこそ商店街から離れた場所にお店を開く若い方を応援したくて、「せんがわ地図」に掲載したりもしています。
あとは、これまでと変わらず寛容な街であり続けて欲しいと思います。規制やルールが厳しくなる一方なので、そういう街にならないで欲しいなと思います。

笠原真志さん:今年で10年目になる「JAZZ ART せんがわ」の関連企画で、ダンスと音楽の即興パフォーマンスが街中で行われる「LAND FES」がやってくるのですが、規制だったりいろんな決まり事が増えると開催が難しくなってくる。そういうことが可能な寛容な場所であり続けて欲しいと思います。

小森葵さん:「仙川地図研究所」の今後の活動やイベントの案内については、webやfacebookでも発信しているので、そちらをご覧ください。クリエイターのメンバーは「仙川地図研究所」の活動を通じて、あたらしいソフトウェアの使い方や表現手法を覚えたり、制作のトレーニングにもなっています。最近ではVRや360°パノラマ撮影、ドローン撮影といった最新技術も使用していろいろなものを作っているんです。メンバーそれぞれのやってみたいことを実現できる場でありたいなと思います。

仙川地図研究所のみなさん
仙川地図研究所のみなさん

仙川地図研究所

上段左から横山圭さん、笠原真志さん、わだふみおさん
下段左から笠原文代さん、川西ゆうこさん、小森葵さん
所在地:東京都調布市若葉町1-28-28 ニワコヤ内
URL:http://sengawamap.com/
取材協力:J’arrive!!(ジャリーヴ)
※この情報は2017(平成29)年8月時点のものです。