焼き立てにこだわり、多くの人に笑顔を届ける「メゾン・ダーニ」

白金高輪駅の3番または4番の出口から地上に出ると、目の前には片側4車線の大通り、直上には高層ビルという風景にまず出会う。しかし「これが白金高輪か」と思うのは少し待ってほしい。昨今の白金高輪の面白さは、裏通りにある。 大通りを背にして100メートルも歩けば、魅力的な個人店が並ぶ通りが南北に伸び、人々は楽しげな表情で闊歩している。そんな一角にあるのが、今回ご紹介する「メゾン・ダーニ」だ。

「メゾン・ダーニ」は、フランスとスペインの国境地域にあるバスク地方の伝統菓子を中心に扱っているパティスリー。バスクの焼菓子が主役という珍しい形の店で、店がオープンしてから5年以上経つが、どんな日も客足が絶えることはない。今回はこちらのシェフパティシエである戸谷尚弘氏を訪ね、お店の特徴とバスク菓子の魅力、白金高輪エリアの魅力について、幅広くお話を聞いた。

「メゾン・ダーニ」のシェフパティシエ 戸谷尚弘さん
「メゾン・ダーニ」のシェフパティシエ 戸谷尚弘さん

――まず、お店の概要についてお聞かせください。

戸谷さん:この店は2015年の6月27日にオープンいたしまして、フランスの伝統的な焼き菓子を中心とした、私の「バスク」への思いを詰め込んだ店となっています。「バスク」はフランスとスペインにまたがっている地域のことです。 なぜバスクかと言いますと、私がフランスに修行に出た際に、最初はパリの小さなお菓子屋さんで働き始めまして、その後、パリの「ラ ヴィエイユ フランス」という名店で働かせていただいたのですが、その修行の合間を縫って、美味しいお菓子の店があると聞けば、食べに行っていたんですね。

店舗の外観
店舗の外観

日本にも広めたいと感じた、バスクの郷土焼き菓子

その中でバスク地方も訪れまして、ビアリッツという街にある「ミルモン」という1872年創業の老舗を訪れたんですが、そのお店のお菓子を食べた時に、非常に感銘を受けたんですね。特に「ガトーバスク」という郷土焼き菓子に魅せられました。もちろん、それ以前からガトーバスクの存在は知っていたわけですが、ミルモンのガトーバスクを食べた瞬間に、「この美味しさをいつか日本でもご提供して、たくさんの人に知っていただきたい」と思いまして、パリに帰ってからもその思いが膨らんでしまったものですから、ミルモンの門を叩いて、修行を始めたんですね。その時に吸収したものが、この店には色濃く反映されています。

一つ一つお店で丁寧に作られるガトーバスク
一つ一つお店で丁寧に作られるガトーバスク

自分のお店を開くなら、「本物」がわかる場所で

――数ある“グルメの街”の中でも、白金にお店を開いた理由を教えてください。

戸谷さん:フランスに渡る前まで、この白金の地で働いていた時期が長かったものですから、ここの地域のお客様の層が分かっていたんですね。「本物」を分かってくださる方が多くいらっしゃる場所だと。ですから、「自分の店を持つなら白金に」ということは、日本にいる時から思っていました。

ショーケースには種類豊富なケーキが並ぶ
ショーケースには種類豊富なケーキが並ぶ

――お店に並んでいるのは、すべてバスク地方のお菓子ですか?

戸谷さん:バスク地方を軸にはしていますが、もちろん、パリで学んだ技術もありますし、ここで活躍してくれている仲間のパティシエもそれぞれ技術を持っていますから、それをミックスした形でご提供しています。ただ、スタート時には今より少ない商品展開で、ガトーバスクに関しても、最初は伝統的なダークチェリーのものだけでした。それからお蔭様で常連様も増えてきましたので、「もっとお客様に喜んでいただきたい」と思いまして、カスタードクリームのものや、チョコレートのものをバリエーションに加えて、今に至っています。

あと、生地にチョコレートを練りこんだものもありますが、これはバレンタイン限定でお出ししたものが好評だったものですから、レギュラー化したというものです。季節限定のガトーバスクもありまして、たとえば冬には、長野の小林農園さんのりんごを使ったガトーバスクをお出ししています。こういった季節限定の品も含めて、ぜひ、楽しんでいただければと思っています。

一番美味しい味のため、何度も焼き立てを

――ガトーバスクの美味しい食べ方を教えてください。

戸谷さん:やっぱり、焼き立てがいちばん美味しいです。実はガトーバスクをいちばん美味しく食べられるのは、パティシエ達なんですよ。もちろん、この美味しい状態をできるだけ多くのお客様にも体験していただきたいと思っていますから、ガトーバスクは朝から閉店前まで、1日に10回以上は焼き上げていまして、焼き立てをどんどん追加していくような形になっています。ですから、何時に来ていただいても、良い状態のものをお買い上げいただけるかと思います。

店内には、朝早くから1日10回以上、ガトーバスクが追加され並んでいく
店内には、朝早くから1日10回以上、ガトーバスクが追加され並んでいく

――朝は7時からの営業ですが、なぜ、このような営業時間なのでしょうか?

戸谷さん:これは決して簡単なことではないんですが、やはり、大切な方への手土産として、良い状態のガトーバスクをお持ちいただくには、朝早くからの営業が必要なんですね。ここに朝の7時に来て、それから飛行機や新幹線に乗って、遠方の商談先などにお持ちいただく、そういった使い方をされるお客様でも間に合うように、このようにしています。

――「マカロンバスク」も人気のお菓子ということですね。

戸谷さん:そうですね。これは、フランスの王様とスペインの王女が結婚式を挙げた時に、献上菓子として使われたお菓子で、いわゆる「マカロンパリジャン」よりも300年ほど前からある伝統のお菓子です。アーモンドをたっぷり使っていますので、香りとその食感を楽しんでいただけると思います。縁起の良いお菓子として、贈答や引き菓子に使われる方が多いですね。このマカロンバスクに限っては、全国配送も承っております。

お店の名前が刻まれたベレー帽
お店の名前が刻まれたベレー帽

――そもそもなぜ、バスク地方で焼き菓子文化が発達したのでしょうか。

戸谷さん:ガトーバスクは17世紀頃に生まれたと言われていますが、そのルーツは、捕鯨船向けの保存食だったそうなんです。バスク地方は捕鯨が盛んだった地なんですね。それが普及していく中で、最初はクッキーのようなお菓子だったものが、コンフィチュールが入るようになって、その中でもバスク地方特産のダークチェリーが定番になっていったそうです。

スペインバスクの定番菓子「ゴショア」
スペインバスクの定番菓子「ゴショア」

――ガトーバスクの素材には、どのようなこだわりをお持ちですか?

戸谷さん:ミルモンで学んだ味を出せるようにフランスのバター、フランスのさくらんぼを取り寄せて使っていますし、アーモンドはスペイン産の良質なものを使っています。

ヘーゼルナッツ風味のガナッシュとムースの組み合わせが魅力「ベレ バスク」
ヘーゼルナッツ風味のガナッシュとムースの組み合わせが魅力「ベレ バスク」

本物だからこそ、様々な思いに応えてくれる

――どんなお客さんが来店されていますか?

戸谷さん:女性のお客様が割合としては多いですが、最近は特に、男性の比率が増えてきた印象があります。「美味しいと思っていただける機会」が増えてきたのかもしれませんね。やはり、自分が贈られて美味しかった、嬉しかった、となれば、「人に贈ってみたい」という気持ちになりますよね。そのように思っていただける方が増えてきたのかな、と感じています。

――平日はビジネス関係の引き合いも多いのでしょうか?

戸谷さん:そうですね。うちは「焼き立て」にこだわっていますから、「今日の焼き立て」を取引先にお渡しすれば、思いがより伝わりますよね。そういった点を汲んでいただいて、ビジネスシーンで使ってくださる方は多いです。朝などは特に、秘書の方にも多くご来店いただいております。接待で使う手土産に、お持ちいただいているのかと思います。

お土産にも人気なマカロン・バスク
お土産にも人気なマカロン・バスク

――今後、どんなお店としてありたいとお考えですか?

戸谷さん:今年はコロナ禍ということで、世の中が大きく動きましたけれども、私どもの店は幸いにも、以前からご贔屓にして下さるお客様が引き続いて来てくださって、比較的影響が少なく済んでいます。

今回の経験を通して、「皆さんに愛していただいて、支えていただいている」ということを改めて実感しましたので、今後も変わらず、「つねにいい状態で、皆様に喜んでいただけるものをお届けする」という気持ちを忘れず、贈った人から贈られた人へ、贈られた人からまた新たな誰かに、「笑顔のリレー」をつなげられるようなお店でありたいと思っています。

にぎわいが増した、「あたたかな街」

――最後に、この白金高輪エリアに暮らす魅力と、昨今の街の変化についてお聞かせください。

戸谷さん:「白金」というと一般的には「セレブの街」といったイメージがあるかと思いますが、実際に街を歩いてみますと、昭和の昔からある商店街が残っていて、そこには魚屋さんや八百屋さんもあったりしますし、街を歩けば挨拶をしてくださる方も多いですし、「あたたかな街」なんです。特にこの白金高輪はそんな雰囲気があると思います。

ファミリーの方に関しては、本当にいろんな場所に、お子様と一緒に遊べるような小さな公園が点在していて、それぞれ遊具も違っていたりしますので、公園をいくつもハシゴして遊ぶ、なんてこともできると思います。大人の方にとっては、やっぱり、グルメが面白い街ですね。ここ数年は特においしいお店が増えてきましたし。

うちがオープンした時にはまだ、周りにあまり飲食系のお店が無くて、お向かいの人気店「マルイチベーグル」さんくらいでしたけれど、その後から、星付きレストラン出身のシェフがやっているスイーツ店だったり、エッグタルト専門のお店だったり、本格的なパティスリーだったりと、新しいお店が増えてきて、街の雰囲気も変わってきたと思います。実は私たちも、ここをオープンした後に系列店として、バスクチーズケーキのお店「ガスタ」と、イタリア輸入食材のお店「ドロゲリア サンクリッカ」をこの地域にオープンさせましたので、そういったいろんなお店を回る楽しみが、大人の方にとっては魅力のひとつなのかな、と思います。

今ではわざわざ遠方からも、そういった美味しいものを求める方が来てくださるようになったので、5年前と比べても歩いている人が増えて、街がにぎやかになってきたな、と感じています。

メゾン・ダーニ
メゾン・ダーニ

メゾン・ダーニ

シェフパティシエ 戸谷尚弘さん
所在地 :東京都港区白金1-11-15
電話番号:03-5449-6420
URL:https://mdahni.com/
※この情報は2020(令和2)年9月時点のものです。