大田区 空港まちづくり課インタビュー

新たなにぎわいを創出に向けて官民が連携して取り組む「羽田空港跡地」のまちづくり

大田区羽田から環八通りの穴守橋を渡った対岸側、「天空橋」駅を中心とした大田区羽田空港一・二丁目エリア。ここはかつて沖合移転前の「羽田空港」があった場所で、移転後は長らく広大な更地が広がるエリアとなっていたが、近年、大田区と民間事業者が連携しながら新たなまちづくり計画を検討してきた。2018(平成30)年現在、エリア全体は工事用の仮囲いで覆われ、造成事業が始まっている。
この地区には今後どんなまちができ、どのように活用されていくのだろうか。この事業を管轄する大田区の空港まちづくり課の竹之内康徳さん、栗原優さんにお話を伺った。

「旧羽田三町」にあった「東京飛行場」

1936(昭和11)年頃の羽田周辺(出典:国土地理院)
1936(昭和11)年頃の羽田周辺(出典:国土地理院)

1936(昭和11)年頃の羽田周辺と現在の地図を重ねたもの
1936(昭和11)年頃の羽田周辺と現在の地図を重ねたもの

――「羽田空港跡地」のまちづくり計画について、経緯を教えてください。

竹之内さん:1931(昭和6)年に「東京飛行場」として開港した「羽田空港」は、沖合移転以前は現在の「天空橋」駅の辺りにありました。その周辺には羽田鈴木町、羽田穴守町、羽田江戸見町という、「旧羽田三町」と呼ばれる町があったのですが、1945(昭和20)年、終戦で空港がGHQに接収されると、この三町の住民は48時間以内に強制退去を命じられたという歴史があります。住民の方々は着の身着のまま、立ち退きを余儀なくされたということです。その後、1952(昭和27)年に空港の大部分が日本に返還され、「東京国際空港」として重要な役割を果たすようになりました。
ところが昭和30年代に入ると、飛行機の大型化や、着陸回数の増加などもあり、「羽田空港」を沖合に移転させようという計画がで出てきました。それを受けて、1977(昭和52)年に国土交通省(当時の運輸省)と東京都、品川区、大田区が参加して「羽田空港移転問題協議会」が設置され、移転の検討を進めてくことになりました。検討内容には移転後の空港跡地の利用についても触れられており、それが今回の計画の原点になっています。

空から見る羽田穴守 1936(昭和11)年(左)・1947(昭和22)年(右) (国土地理院所蔵の地図をベースに一部を加工)
空から見る羽田穴守 1936(昭和11)年(左)・1947(昭和22)年(右) (国土地理院所蔵の地図をベースに一部を加工)

――これが近年、いよいよ事業化したということなのですね。今回の開発では「第1ゾーン」と「第2ゾーン」の事業が行われるそうですが、それぞれのゾーンの特徴について教えてください。

竹之内さん:ゾーニングについては、2008(平成20)年に「羽田空港跡地利用基本計画」が確定し、この基本計画の中で3つのゾーニングがなされました。第1ゾーンについては市街地にいちばん近接しているゾーンですので、「市街地近接ゾーン」という位置づけ、第2ゾーンは国際線に近いという場所なので「国際地区隣接ゾーン」、第3ゾーンについては「B滑走路隣接ゾーン」としました。

「羽田空港跡地利用基本計画」におけるゾーニング
「羽田空港跡地利用基本計画」におけるゾーニング

それぞれのゾーンにどのようなものを配置していくか検討していく中で、旧羽田三町にあたる第1ゾーンには「産業と文化の交流機能をもたせよう」ということが決まりました。大田区はご存知のとおり中小企業の製造業が多い区ですので、そういった産業の交流施設を中心に置きたいと考えています。また、先ほどお話したような羽田三町の話なども含めまして、地域の歴史の伝承を含めた文化の交流機能という部分も考えています。
第2ゾーンについては、国際線旅客等の利便性の向上を図るため、宿泊施設(エアポートホテル)を導入します。第2ゾーンは国と民間の事業者の間で話が進み、すでに着工しており、2020年のまちびらきを目指しています。
第3ゾーンについては、基本計画を作った当時、まだこの地域がどう変化していくか分からない部分があったので、詳しい内容まで決めず、これから検討するという地区になっています。そのため現状では、第1ゾーン・第2ゾーンについて、工事が進んでいるところです。

「先端産業」「文化産業」「憩いとにぎわい」を基本方針に

――大田区が関係する第1ゾーンでは、今後どのような施設ができていくのでしょうか?

竹之内さん:第1ゾーンの開発の基本方針としては「世界と地域をつなぐ新産業創造・発信拠点」としての「HANEDAゲートウェイ」という言葉を掲げ、「先端産業」「文化産業」「憩いとにぎわい」を「3つのゲートウェイ」と位置づけました。現在はこの方針を踏まえて、事業者が提案してきた内容の具体化に向けて検討を進めているところです。
このうち「先端産業」についてはさらに3つ、先端モビリティ、ロボット、健康医療といったテーマを設けまして、そこにフォーカスした研究開発を検討しています。「共通事業」に関しては、その地域のブランドであったり、その街の魅力であったりというものを発信するような機能を持たせるために、「エリアマネジメント委員会」というものを作り、今後、大田区をどのように日本の内外にアピールしていけば良いのか、ということを、検討していきたいと考えています。

第1ゾーン提案時のイメージパース
第1ゾーン提案時のイメージパース

栗原さん:いまご説明したのは第1ゾーンのうち、5.9ヘクタールの一部分ですが、この拠点を軸にして、先端産業の分野の企業と地場の企業がつながったりして、新たなイノベーションを起こしていければ、というところを目指しています。
「文化産業」という部分についても、イベントホールもできる予定ですので、「羽田空港」近接というメリットを生かして、国内外の多くの方に来て、滞在して、回遊していだけるであろうというところも期待しています。当然、地域の方にも大いに利用していただいて、にぎわいを生み出していただければ、と思っています。
「憩いとにぎわい」という意味では、今後、この5.9ヘクタール以外の部分、多摩川に面した緑の部分に広い公園が整備される予定ですので、そちらも楽しみにしていただければと思います。ただ遊具があり広場がある公園ではなくて、産業や文化といった要素も取り入れながら、みなさんに「面白いな」と感じていただけるような公園を造っていきたいと思っています。

資料をもとに説明する様子
資料をもとに説明する様子

宿泊機能の拡充と多摩川を活かした場づくり

――第2ゾーンについても、少し教えていただけますか?

栗原さん:第2ゾーンは滞在と宿泊機能を持たせるため、3つのグレードのホテルができる予定で、国土交通省が主体となって開発を進めているところですが、約1,700室のホテルが整備されるということです。ここには当然、訪日客の方が多く泊まるでしょうから、ここから第1ゾーンや、大田区内にも回遊が生まれていけば、まちの活性化にもつながっていくのではないかな、と期待しています。

かわまちづくり計画の案
かわまちづくり計画の案

また、多摩川における水辺空間において多様な人々が憩い楽しめることを目的に、第1ゾーンと第2ゾーンの一部が「羽田空港跡地かわまちづくり計画」として認定されており、たとえば水辺のレジャーや生物とのふれあい体験、川辺のカフェなど様々な川辺を活かした取組みが今後想定されます。さらに堤防上には展望テラスに休憩施設を整備したり、植栽を設置するなど、親水性を考慮した「憩いの場」づくりを進めていこうと考えています。

堤防整備のイメージ
堤防整備のイメージ

――そもそもこの開発は、どういう方をターゲットに想定しているのでしょうか?

竹之内さん:先端産業という部分では、やはりその業種の方をメインターゲットにしていますが、文化産業は、全カテゴリの方が対象になるかと思いますので、日本全国、世界各国から訪れる方が対象になっていくのかと思います。

栗原さん:やはり空港近接という立地ですので、訪日客に対する「おもてなし」の場所として、日本の文化などを知っていただくという面は、当然あるかと思います。ただそれだけではなく、地元の方を含め、さまざまな方に幅広く来ていただけるような場所にしていけばいいな、と思っています。まだ計画段階の話ですが、地区内に「観光案内所」もできる予定ですので、国外の方も、国内の方も、まずはここに来ていただいて、ここを拠点にして、大田区内や日本のいろいろな場所に行っていただければと思っています。

まちびらきに向けて具体案を検討中

――大田区民にはどんなメリットがあると予想されますか?

栗原さん:日本の伝統文化の体験や自動運転などの先端モビリティに触れること、イベントホールで音楽や演劇を楽しむことが、身近にできるようになるというところは、区民の方々にも楽しみにしていただける部分かと思います。

竹之内さん:大田区への波及効果も当然期待しているところではありますので、ここに来た人たちが、大田区内の商店街等を訪れて、にぎわいを生み出せるような仕組みをつくっていきたいと考えています。具体的にどのように実現していくかという点は、事業者とともに検討している段階です。

――進捗状況はいかがでしょうか?

竹之内さん:2018(平成30)年の5月に、事業者と事業契約を締結し、2020年(平成32年)のオリンピックに合わせた「まちびらき」に向けて憩いや賑いが生まれるまちづくりを進めています。
これから2年間、それぞれの地区で工事が急ピッチに進んでいくかと思いますが、その間、より地域の方々に羽田という地域を知っていただくため、「天空橋」駅付近の工事用仮囲いを使った写真展示を行っています。3か月ごとに内容を替えながら展示していますので、こちらも是非ご覧いただければと思います。

『あのときの、羽田』の展示風景
『あのときの、羽田』の展示風景

区民が納得し、期待できるよう進めていく

――最後に、お二人の今後のこの開発に対する思いや、展望についてお聞かせください。

竹之内さん:今回の第1ゾーンの開発については、区で取得した土地を、民間事業者と連携しながら開発を行うという事業になります。長いスパンの事業ですので、取り掛かりがとても重要だと思っています。多くの税金を投入している、という責任も感じていますので、区民の方にも納得いただけるような、しっかりとしたものをつくっていきたいという思いを強く持っております。

栗原さん:今後この第1ゾーンには、様々な人々が訪れ、また地域の方が憩い、にぎわっていただくというような場所が増えていくかと思います。ただ、まだまだ、この第1ゾーンに何ができるのかを知らない区民の方も多いですので、今後も周知を図りながら、スムーズに開発を進めていければと思っています。

大田区役所
大田区役所

大田区 空港まちづくり本部 空港まちづくり課 空港まちづくり担当

竹之内康徳さん(左)、栗原優さん(右)
所在地:東京都大田区蒲田5-13-14
URL:https://www.city.ota.tokyo.jp/seikatsu/sumaimachinami/haneda_airport/index.html
※この情報は2018(平成30)年7月時点のものです。