アートアクセスあだち 音まち千住の縁 吉田武司さん インタビュー

「アートアクセスあだち 音まち千住の縁」が取り組む、人と人をつなぐアート活動

江戸時代の四大宿場町として発展してきた千住には、江戸の規制を逃れて移り住んだ文化人たちの自由闊達な表現活動を受け入れる風土がある。そんな大らかな千住の地で、“アートを通じて人と人との縁を見つめ直そう”と2011(平成23)年から活動を開始し、街なかを舞台に地域の人たちと一緒にアートプロジェクトに取り組んでいる「アートアクセスあだち 音まち千住の縁」。その活動の内容と地域の人たちの関わりについて、ディレクターの吉田さんに話を伺った。

関屋公園での「Memorial Rebirth 千住」(2017) 写真:冨田 了平
関屋公園での「Memorial Rebirth 千住」(2017) 写真:冨田 了平

――活動内容についてお教えください

吉田さん:今年で活動開始から8年目を迎える「アートアクセスあだち 音まち千住の縁」(以下、音まち)は、現在年間6つのプロジェクトを進行している市民参加型のまちなかアートプロジェクトです。千住にキャンパスをおく東京藝術大学、足立区のシティプロモーション課、東京文化発信プロジェクト室(現アーツカウンシル東京)などの協力・サポート・後押しもあって、「アートを通じて人と人との縁を見つめ直そう」と2011(平成23)年に発足したのがこのプロジェクトです。
足立区では孤独死などの事件が世を騒がせ、“無縁社会”という言葉の走りになってしまった頃でした。核家族化が進み、一人暮らしのお年寄りも増え、人(と)のつながりが失われつつあるといわれるなか、「人との縁をつくりたい」「人と人とをつなげたい」「人とアートをつなげたい」という思いで、あえて名前に“縁”(えん)という言葉をつけて発足した音まち千住の縁。その期待通り千住の方々は、他人事ではなくこのプロジェクトに参画してくださっています。

さまざまな人が関わる「アートアクセスあだち 音まち千住の縁」 写真:冨田 了平
さまざまな人が関わる「アートアクセスあだち 音まち千住の縁」 写真:冨田 了平

――千住という街の特色も大きく影響しているのでしょうか?

吉田さん:もともと千住は江戸時代から大いに栄えてきた歴史ある江戸四宿(品川宿・内藤新宿・板橋宿・千住宿)のうちのひとつで、多種多様な人々が暮らす賑やかな街でした。そして江戸時代にはお江戸の規制が届かない地として、多くの文化人たちが移り住んだと言われています。琳派の絵師も歌人や文筆家も堅苦しい約束事から開放され、自由に楽しく文化に親しむ風土が、千住の人たちのDNAには組み込まれているような気がしますね。

足立市場で1010人の演奏者と行ったコンサート「千住の1010人」 写真:加藤 健
足立市場で1010人の演奏者と行ったコンサート「千住の1010人」 写真:加藤 健

――これまで開催してきたプログラムには、どのようなものがありますか?

吉田さん:音まちが1年間に開催しているプロジェクトは6つほどあります。まず「音まち」のシンボルともいえるイベント「Memorial Rebirth 千住」、通称メモリバです。これはアーティストの大巻伸嗣さんのアトリエが千住にあったことから縁を得て、今年で8回目、毎回場所を変えての開催となっている恒例行事です。1分間に約1万個のシャボン玉が放出されるバケツを櫓(やぐら)のように会場の中心に組み上げ、昼の部は「しゃボンおどり」をみんなで踊って楽しむ地域のお祭りの様相、夜の部は光を使った幻想的なパフォーマンスを行う、アート感満載の催しになっています。このノスタルジックで誰の記憶にもあるシャボン玉の存在が、幼い頃の記憶を呼び起こし、またこのメモリバのシャボン玉が未来の記憶につながっていく。そんな記憶の循環をも表現しているプロジェクトです。

関屋公園での「Memorial Rebirth 千住」(2017) 写真:冨田 了平
関屋公園での「Memorial Rebirth 千住」(2017) 写真:冨田 了平

もう一つ、音楽家の野村誠さんが主導する「千住だじゃれ音楽祭」は、参加者と一緒にだじゃれを言い合いながら即興の音楽も演奏するユニークなイベント。1010人の演奏者を公募して「千住の1010人」というコンサートを開いたり、アジアの音楽家たちと交流したり、年々活動の場を広げています。ここから生まれた「だじゃれ研究会」には、小学生から80代まで演奏技術の有無に関係なく“だじゃれ好き”“音楽好き”が集まっていて、それはそれは楽しそうに活動していますよ。
このほかにも、街に暮らす外国籍の方々の知恵や文化を学ぶ「イミグレーション・ミュージアム・東京」や、公募で集まった音の記者たちが集めた街の音を編集・発信する「千住タウンレーベル」など、街に暮らす人たち・新たに千住に越してきた人たちを巻き込みながら進行中です。もちろんこの他にも面白い企画があれば、随時新しいプロジェクトにも取り組むつもりで、日々アンテナを高く、広く伸ばしています。

アサダワタル「千住タウンレーベル」の一環で、千住名物「ボッタ」を焼く音を収録している様子 写真:小野澤 峻
アサダワタル「千住タウンレーベル」の一環で、千住名物「ボッタ」を焼く音を収録している様子 写真:小野澤 峻

文化人たちを支え続けてきた日本家屋が、音まちの活動拠点に

――仲町の家についてお教えください

吉田さん:千住のまちを作ったひとりと言われる石出掃部介吉胤(いしでかもんのすけよしたね)のご子孫が、大切に守り続けてきた趣ある日本家屋を縁あって借り受け、「音まち」の活動拠点としているのが「仲町の家」(なかちょうのいえ)です。プロジェクトの展示や企画のミーティングなどのほか、みなさんが出会い・交流し、新たな活動がうまれていくような“文化サロン”として2018年からは土・日・月・祝日の10〜17時に開放することにしました。開放している間はコンシェルジュがみなさんをお迎えし、独自の視点で千住の情報やおすすめスポットなどをご紹介します。

音まちの活動の足場「仲町の家」
音まちの活動の足場「仲町の家」

仲町の家には、今は見ることが少なくなった縁側があり、その縁側から眺める緑豊かな庭もあります。時には演劇や音楽の上映、サウンドインスタレーションの展示なども行っています。ふらっと遊びに来てもよし、お昼休みにお弁当を食べに来てもよし、気軽に自由に立ち寄っていただいて、いろいろな人やアートに出会ってもらえればと思っています。
来て見ていただくとわかりますが、銅の雨樋には彫刻が施してあり、梁には精巧な造りの釘隠し、立派な欄間もあって、贅を尽くした家屋だったことがわかります。実は最近、この家から琳派の有名な絵師による下絵が見つかりました。そんなことからも、この家には文化的な人々が集まり、サロン的な役割があったのかもしれないと想像しています。時間を超えて、この仲町の家には文化を入口に人々が集まり、それを支えサポートする役割があるのではないかと考えると、これもまた大きな「縁」を感じます。

仲町の家で実施したお茶と音楽のプログラム「茶MUSICA」 写真:鈴木竜一朗
仲町の家で実施したお茶と音楽のプログラム「茶MUSICA」 写真:鈴木竜一朗

――活動を通じて、千住の街にどのようなコミュニケーションが生まれているのでしょうか?

吉田さん:「音まち」の活動は千住の街を中心に、地域の方々とアーティストが協働して行うものですので、企画・広報・運営・実施には常に地域の方々とのコミュニケーションが必要です。例えば毎年恒例のメモリバのイベントも今年は初めて千住の街を出て西新井で開催しましたが、西新井の小学校の保護者の方々と密に連絡を取り合い、協力し合って今年の開催が実現しました。
またイベントには足立区を中心とした小中校生から参加するティーンズ楽団&合唱団や、30~80代の街の方々による音まちビッグバンドが出演したり、一般の方々の関わりや出番も多いので、アーティストと区民の方々だけでなく、区民同士のコミュニケーションも生まれていると思います。
それに加え、「音まち」には“街のおやじ”たちもかなり積極的に関わってくれているのも特徴的です。町会や青少年委員などその役職はまちまちですが、イベントの警備から会場の設置など肩書きを超えて支え・関わってくださっています。「北千住」駅東口にある「東京電機大学」の学生も協力してくれているので、本当に街中でコミュニケーションを取り合っているという感じでしょうか。
そのためにも「音まち」のプロジェクトに関わるアーティストは、地域の方々とのコミュニケーションを大切に思ってくださる方にお願いしています。

メモリバを支える市民チーム「大巻電機K.K」 写真:冨田 了平
メモリバを支える市民チーム「大巻電機K.K」 写真:冨田 了平

千住の人々を巻き込みながら、滲み出るように活動を広げていきたい

――今後の活動の目標や、取り組みたいと考えていることなどはありますか?

吉田さん:千住は江戸時代から自由で多種多様な表現が許された場所で、その包容力は今も生きています。だからこそ毎日が文化活動に溢れる刺激的な街になればいいですよね。 音まちのプロジェクトに参加した人たちが、“自分たちでも活動しよう”と音楽団体やサークルを作ったという話を聞くにつけ、「街の人たちに少しは刺激を与えられたのかな」とうれしくなります。そんな街の人たちに刺激を受けて、今度はアーティストたちも新たな表現や作品を作り出す、そんな双方向の刺激の与え合いがあるといいですよね。 最初は蚊帳の外から見ている人たちも、参加したくてウズウズしてくるような楽しくてワクワクする活動に今後も取り組んでいきたいです。そして千住で8年間活動をしてきた「音まち」を、少しずつ滲み出るようにして外へその輪郭を広げられたらと思っています。

趣のある日本家屋の部屋
趣のある日本家屋の部屋

――これからこの街に住まわれる方にメッセージをお願いします

吉田さん:ここに住んで誰かとつながりたくなったら、何かわからないことがあったら、アートを感じたくなったら、是非仲町の家に来てみてください。千住で生まれ育った女性から、千住で子育て真っ最中のママさんまで、個性豊かな優しいコンシェルジュたちがお待ちしています。そして少しでも興味が持てたら、「音まち」のイベントに足を運んでみてください。人情味溢れる温かくて人を放っておけない千住の人たちが、みなさんを待っています。

吉田武司さん
吉田武司さん

アートアクセスあだち 音まち千住の縁

ディレクター 吉田武司さん
所在地:足立区千住仲町29-1(仲町の家)
オープン:土日月・祝日10~17時 入場無料
URL:http://aaa-senju.com/
※この情報は2018(平成30)年11月時点のものです。