スペシャルインタビュー

早朝アクティビティやアップサイクルカフェなど、「新宿御苑」から新しい公園文化を発信

環境省が管理する国民公園「新宿御苑」で2020(令和2)年8月よりスタートした早朝2時間の朝活プロジェクト「7-9PARK(ナナキュウパーク)」。ヨガやストレッチ、ウォーキングといった運動をはじめ、英会話やガイド付きの庭園散策など、「新宿御苑」の魅力を新しい形で体感できる多彩なプログラムが開催されている。また、2022(令和4)年10月には新宿門の隣にあるインフォメーションセンター内にカフェ「Under the Tree(アンダー ザ ツリー)」がオープン。規格外野菜を使ったメニューを通して世の中への気づきを与えてくれるお店としても注目を集めている。

今回はその「7-9PARK」や「Under the Tree」の運営を行う株式会社コクーンラボの釜石剛さんと、「Under the Tree」の立ち上げに携わったカフェ専門家の中島誠さんを訪ね、それぞれの事業の概要と新宿御苑周辺エリアの魅力についてもお話を伺った。

カフェ専門家の中島誠さん(左)、株式会社コクーンラボの釜石剛さん(右)
カフェ専門家の中島誠さん(左)、株式会社コクーンラボの釜石剛さん(右)

近隣住民や旅行客から高かった「新宿御苑」の早朝開園ニーズ

――「7-9PARK」のコンセプトやねらい、事業立ち上げの背景となった課題やニーズを教えてください。

釜石さん 事業のきっかけは2019(令和元)年秋に遡ります。「新宿御苑」は年間250万人が訪れる人気の高い国民公園で、その約半数を外国人が占めていたことから、東京オリンピックの開催を前にさらなる魅力向上を目指して、さまざまな取り組みが検討されていました。そのなかのひとつに近隣住民の皆さんやインバウンドのお客さんからニーズの高かった早朝開園があり、通常の開園時間(午前9時)よりも早く開門をして利用者にアンケートを実施する調査業務が行われました。

早朝から訪れたいというニーズも多い「新宿御苑」内の様子
早朝から訪れたいというニーズも多い「新宿御苑」内の様子

私たちも海外に行ったときに現地の公園を走ってみたいと感じることがあるように、日本に訪れた外国人も同じような感覚で、朝の公園を気持ちよく走りたいというニーズがありました。

1週間の調査業務を経て翌年に公募があり、私が代表を務める株式会社コクーンラボとパーソナルトレーナーとジム、ユーザーのマッチングを行うstadiums株式会社の2社で事業をやらせていただくことになりました。

――「7-9PARK」では具体的にどのような取り組みをしているのでしょうか。概要について教えてください。

釜石さん 「7-9PARK」の目的は早朝7〜9時の2時間で、「新宿御苑」の新たな活用法や公園文化を生み出して利用者を増やすことにあったのですが、そもそも公園を利用する人によって公園の価値は変わるものです。海外では利用する人たちが一緒に公園をつくっていく文化があるようです。

私たちは、“朝の公園で気持ち良く活動してもらう”という価値をつくり上げるために、これまでヨガやストレッチ、ウォーキング、英会話やガイド付きの庭園散策といった様々なプログラムをおこなって来ました。

過去に開催されたプログラムの様子
過去に開催されたプログラムの様子

特徴としてはプログラムを主催したい事業者さんと参加したいユーザーが専用のアプリをプラットフォームとして活用しているところです。事業者さんには専用アプリから事務局に申し込んでいただいた上で、ご自身でアプリ内にアクティビティのページを作成してもらいます。一方、ユーザーの方は同じ専用アプリにユーザー登録の上、参加したいアクティビティを選択して予約します。

アプリ上で事前予約からキャッシュレス支払いまで完了するので面倒もありませんし、アプリ内には「新宿御苑」の地図もあるので広い園内のどこでアクティビティが開催されているかもひと目でわかります。もちろんスマホを普段使っていない方には、現地での当日受付も対応しています。

アプリ画面のイメージ
アプリ画面のイメージ

「7-9PARK」に参加するには「新宿御苑」の入園料500円(一般)とプログラムごとに500~3,000円前後かかりますが、頻繁に来園される方は2,000円(一般)の年間パスポートを購入している方もいらっしゃいます。

子ども向けのプログラムや企業間連携で行う新たな取り組みも

――2020(令和2)年8月の事業開始から現在に至るまでの状況はいかがでしょうか?変化した点なども教えてください。

釜石さん 新型コロナウイルス感染症の感染拡大によって、すぐには事業を始められなかったのですが、しばらくして感染状況が少し落ち着いて来た頃に、「新宿御苑」のような広いところでないと外に出にくいとか、屋外なら一定の間隔を保てば運動できるということで、「7-9PARK」への関心が高まりました。

今年は新宿門と千駄ヶ谷門のふたつを開門しているのですが、土日の入場者数は300人を超えています。先週のヨガも参加者が50人もいて大盛況でした。SNSのフォロワーが10万人もいる指導者の方によるヨガプログラムで、皆さん芝生の上で気持ちよさそうに身体を動かしていました。

広い敷地内、ボランティアの方々とも一緒に「7-9PARK」の運営が続けられている
広い敷地内、ボランティアの方々とも一緒に「7-9PARK」の運営が続けられている

またこの1年間はボランティアスタッフの方がすごく増えました。「新宿御苑」は敷地が広いので私たちだけでは手が回らず、ボランティアの方々に助けていただきながら事業を運営しています。公園の取り組みに関わりたいという方が増えてきたのはとても有り難いことです。

――新しく行われたプログラムで反響のあった取り組み等はございますでしょうか?

釜石さん 夏休み期間中に子ども向けのプログラムを行いました。走り方のトレーニングをするという内容だったのですが、一緒に来た親御さんも参加して走っていました。ほかにも、ヨーロッパのシューズメーカーに参加していただいて、ランニングシューズの体験会も実施しました。通常、公園は商用利用できないのですが、「7-9PARK」に関してはプログラムを自主運営しているため、事務局で選考をした上で企業にアクティビティをサポートしていただくこともあります。

また以前はキッチンカーを出して朝食やドリンクを提供していましたが、今年の10月1日に「Under the Tree」をスタートすることができたため、プログラムが終わった後にカフェに立ち寄って、一杯コーヒーを飲みながらゆっくり過ごしていただくといった新しい流れもできました。

スポーツ庁の第1回「Sport in Life 2021」で優秀賞を受賞。さらに関心が高まる「7-9PARK」

――これから初めて利用する方に向けて、今後、期待して欲しいことなどがあればお聞かせください。

釜石さん 日の出の時間も遅くなるので今年は10月末でいったん「7-9PARK」のプログラムは終わりますが、来年3月から再開する予定で調整しています。コロナとの付き合い合い方も皆さんそれぞれ自分なりに考えられるようになって来たので、来年度からは思いきり朝の時間を活用していただきたいと思います。

株式会社コクーンラボの釜石剛さん
株式会社コクーンラボの釜石剛さん

今年度は土日と祝日の朝に実施してきたのですが、ニーズがあれば平日の朝にも実施したいと考えています。プログラムが多いほど参加してくれる人も増えますし、それに伴い「7-9PARK」そのものが活性化すると思います。

実は「7-9PARK」の取り組みがスポーツ庁の第1回「Sport in Life 2021」で優秀賞をいただくことができました。これをきっかけに今後の活動にはずみをつけたいです。

規格外野菜の有効利用をコンセプトとしたカフェ「Under the Tree」がオープン

――2022(令和4)年に新たにスタートした「Under the Tree」について、コンセプトや目的、概要などをご紹介ください。

釜石さん 2022(令和4)年10月1日より、新宿門の横にある「新宿御苑インフォメーションセンター」内にて「Under the Tree」の営業を開始しました。オープンするにあたって、どういうカフェにしたら良いかといったブランド設計も含めて進めさせていただきました。

テラス席も心地よい、「Under the Tree」
テラス席も心地よい、「Under the Tree」

中島さんとは2022(令和4)年3月に行われた「新宿御苑いちごマルシェ」というイベントを一緒に開催したことがきっかけで、今回のリニューアルにあたって全面的にご協力いただいています。カフェ専門家の中島さんは、製菓・カフェ・調理の専門学校「レコールバンタン」の講師でもあり、「新宿御苑いちごマルシェ」ではレコールバンタンのチームにスイーツを作っていただきました。

「新宿御苑」で生まれた国産いちごの第一号「福羽苺(ふくばいちご)」
「新宿御苑」で生まれた国産いちごの第一号「福羽苺(ふくばいちご)」

新宿御苑」が国産いちごの第一号となる「福羽苺(ふくばいちご)」の生まれた場所であることにちなみ、いちごを使ったアフタヌーンティーセットの提供や全国から取り寄せたいちごの食べ比べなどを行いました。また規格外のいちごを使ったたい焼きやコールドプレスジュースを提供したほか、規格外野菜の販売も行いました。

「新宿御苑いちごマルシェ」開催時の様子
「新宿御苑いちごマルシェ」開催時の様子

中島さん 学校(レコールバンタン)側としては、産学連携の取り組みとして参加させていただきました。学校としても在学中に企業との接点をなるべく多く生徒たちに持たせたいですし、生徒たちにとっても普段の学校の授業とは違う経験ができて非常に良い取り組みだったと思います。

製菓・カフェ・調理の専門学校「レコールバンタン」の講師でもある中島誠さん
製菓・カフェ・調理の専門学校「レコールバンタン」の講師でもある中島誠さん

釜石さんからカフェのリニューアルに関するお話をいただいたときは、「新宿御苑いちごマルシェ」の流れもくんで規格外野菜を扱う、アップサイクルをコンセプトにしました。本来食べられるのに形が悪いだけで廃棄されてしまうといった食品ロスは、環境負荷が高く、なによりもったいない。私は農業大学校の非常勤講師も務めているのですが、農家の方が丹精込めて育てている野菜が基準に満たなかったからといって廃棄せざるを得ない状況にあるという現実を目の当たりにした時に、食育の観点からも何か活用できないかと常々考えていたこともきっかけになりました。

「いちごマルシェ」に関わることで、規格外野菜を扱うことは、今我々が取り組むべきことだという思いが強くなりました。「Under the Tree」を通じてそうしたことも伝えられたら良いなと思います。

ウッドテイストでナチュラルな雰囲気のカフェ空間
ウッドテイストでナチュラルな雰囲気のカフェ空間

規格外な食材の“器”として「スパイスカレー」「フォレストサラダ」「季節のタルト」を考案

――「Under the Tree」ではどのようなメニューを楽しめるのでしょうか?

中島さん まず規格外の野菜や果物を受け取れる器として、カレー・サラダ・タルトの3つを柱にメニューを考えました。カレーの具材としてはもちろん、素揚げにして盛り付けることも出来ますし、ピクルスにして添えても良いですよね。サラダで食べても良いし、ドレッシングにも使えます。スイーツも季節によって内容を変えられるフルーツタルトにすることで一年を通して対応でき、楽しんでいただけるようにしました。

数種類のスパイスを使ったスパイスカレー
数種類のスパイスを使ったスパイスカレー

最終的にはたくさんの農家さんとのつながりや販路を開拓していけることを目標にしていますが、現段階では1メニューにつき最低1種類は必ず規格外の野菜を使っています。

規格外野菜というのはそもそも偶然の産物なので、それだけで食材をまかなうというのは、あえて農家さんに規格外の物を作らせるようなことをしないといけないといった本末転倒な状況になってしまいます。今は数珠つなぎで農家さんに知り合いの農家さんを紹介していただきながら、少しずつ規格外な野菜や果物を提供いただいている状況です。

廃棄予定であった規格外食材も積極的に使用される、具沢山のフルーツタルト
廃棄予定であった規格外食材も積極的に使用される、具沢山のフルーツタルト

先日は和歌山のみかん農園「みかんのみっちゃん」さんが「Under the Tree」まで来てくださって、直接お話しできました。全国にはきっと規格外の食材を扱う当店に共感してくださる農家さんもたくさんいらっしゃると思いますので、私もこういう機会を使って積極的に発信して行きたいと思います。

――園内で美味しいコーヒーが飲めるのも有り難いですね。

中島さん サスティナブルという視点に立ち、オーガニックやエシカルなアプローチをしながら、ソーシャルグッドにつながると良いと思っています。

「Under The Tree」のオーガニックコーヒー
「Under The Tree」のオーガニックコーヒー

ソーシャルグッドという意味ではフェアトレードもそうですし、高品質で良いもの、添加物や化学調味料不使用の食品を扱い、ベジタリアンやビーガン、グルテンフリーなどお客様の食の多様性にきめ細やかに対応していきたいです。

釜石さん 当店のシェフもアメリカ・カリフォルニアのオーガニックレストラン「シェ・パニース」というオーガニック業界で高く評価されるお店で修業しています。同店ではスタッフが畑を耕して、その日に使う食材を収穫するそうです。

オープンしてまだ1ヶ月経っていませんが、平日はビジネスマンや親子連れなど多彩なお客様がいらっしゃいますので、いろいろな気づきをもとにして、ソーシャルグッドな提案ができたら良いなと思います。

多様性を受け入れ、多くの気づきがうまれる場となりつつある
多様性を受け入れ、多くの気づきがうまれる場となりつつある

インフォメーションセンターのリニューアルで、全国の地域産品を発信するセレクトショップ「JAPAN GOLD LABEL」が開業

――コクーンラボ社が運営するセレクトショップ「JAPAN GOLD LABEL」についてもご紹介いただけますか?

釜石さん 「新宿御苑」のさらなる魅力向上の一環として、2020(令和2)年7月にインフォメーションセンターがリニューアルオープンしました。同公園の案内機能の強化と併せて、全国に34ヶ所ある国立公園の情報を発信する「National Parks Discovery Center」が併設されました。またその一画に、国立公園のある自治体や周辺地域の産品を取り扱うセレクトショップ「JAPAN GOLD LABEL」をオープンし、当社が運営しています。

全国に34ヶ所ある国立公園の情報を発信している「National Parks Discovery Center」内の様子
全国に34ヶ所ある国立公園の情報を発信している「National Parks Discovery Center」内の様子

先日は環境省国立公園オフィシャルパートナー企業が「富士箱根伊豆国立公園」の写真展を開催したのに合わせ、当店は地域の観光協会と連携して特産品の販売をしたり、江戸時代から続く甘酒茶屋の甘酒をカフェで提供したりしました。

また去年は、石垣市と連携して、八重山上布の展示と販売、同地のパイナップルケーキやパッションフルーツのジュースや月桃茶といった特産品を販売しました。八重山上布は、苧麻(ちょま)の手紡ぎ糸を使った伝統的な織物で、インフォメーションセンター内で糸を紡ぐワークショップも開催しました。

全国の国立公園近隣の産品が集まるセレクトショップ「JAPAN GOLD LABEL」
全国の国立公園近隣の産品が集まるセレクトショップ「JAPAN GOLD LABEL」

「JAPAN GOLD LABEL」では物品販売をするだけではなく、国立公園のある自治体や周辺地域も含めて興味や関心を持っていただけるような擬似体験ができるような場所にしていきたいと思います。

中島さん 「Under the tree」としても、「JAPAN GOLD LABEL」で扱う商品をカフェで飲食してもらい、気に入ったら購入できるという流れにして行きたいと思っています。

都心の日々に潤いと変化を与えてくれる「新宿御苑」が身近である魅力

――「新宿御苑」周辺エリアの魅力についてお聞かせください。また「新宿御苑」を訪れる方、これから近隣住民になる方へのメッセージなどもお願いします。

釜石さん 「新宿御苑」の事業に関わるようになって、「御苑会」という地域の人たちといろいろな会話をするのですが、「新宿御苑」の近くに住んでいる方はあまり引越ししないという話がありました。自宅の近くに魅力的な公園があると、土地そのもののバリューに付加価値があるということですね。春夏秋冬、さまざまな楽しみ方があるのも「新宿御苑」の魅力だと思います。

都心の暮らしに「新宿御苑」のような自然の中に身を置く時間を意識的に作ることは良いことだと思います。今の時代はデジタルデトックスも大切ですね。

「新宿御苑」新宿門
「新宿御苑」新宿門

中島さん オープンから1ヶ月ですが、「Under the Tree」に毎日来てくださる方もいらっしゃって、食というのは生活の中でも重要なアプローチだと思っています。規格外の食材にコミットするということは旬のものを力強く提供していくことだと思っているので、「新宿御苑」に来ていただいて旬を感じるお手伝いをできたら良いなと思います。

また今後はテイクアウトにも力を入れていこうと思っています。園内でレジャーシートを敷いて、コーヒーやドリンク、パニーニやポテトを楽しんでいただくようなピクニックセットを提案しますので、ぜひ体験してみてください。

新宿御苑
新宿御苑

今回お話を聞いた方

株式会社コクーンラボ 釜石 剛さん(左)
カフェ専門家 中島 誠さん(右)
所在地:東京都新宿区内藤町11(※新宿御苑)
新宿御苑公式サイトはこちら
「7-9PARK」公式サイトはこちら
「Under The Tree」公式インスタグラムはこちら

※この情報は2022(令和4)年10月時点のものです。

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