早稲田大学坪内博士記念演劇博物館インタビュー

2018年春にリニューアルオープン! 誰もが楽しめる「エンパク」の魅力とは?

「早稲田大学」の学生の間では「本キャン」と呼ばれている、早稲田キャンパス。そのシンボルといえばおなじみ「大隈記念講堂」だが、この講堂とほぼ同時期に建てられた「演劇博物館」を知る人は少ないかもしれない。南門を入って正面に見える、ほかの建物とはまったく違うたたずまいの建物がそれだ。
この博物館は、学生や関係者の間では、「エンパク」という呼び名で親しまれている。正式名称は「坪内博士記念演劇博物館」。その名のとおり、早稲田大学の教授でもあった坪内逍遙(つぼうちしょうよう)が発案し、基本構想を作ったという。坪内逍遙は劇作家や小説家として有名だが、現代の日本演劇界の基礎を作ったという功績も大きい。今でも演劇、芸能、文芸等の隣接分野に早大出身者が多いというのは、多くの人が感じていることだろう。

早稲田大学坪内博士記念演劇博物館 第8代館長の岡室美奈子さん
早稲田大学坪内博士記念演劇博物館 第8代館長の岡室美奈子さん

このエンパクでは、2018(平成30)年に開館から90周年の節目を迎えたことを機に、展示内容の大幅なリニューアルを行った。より身近に、より楽しくなったエンパクの魅力について、第8代館長であり、同大教授でもある岡室美奈子先生にお話を伺った。

約100万点を所蔵する世界有数の「演劇博物館」

坪内逍遙の胸像
坪内逍遙の胸像

――まず、「演劇博物館」の沿革について教えてください。

この博物館は1928(昭和3)年に、坪内逍遙の古希(70歳)のお祝いと、シェイクスピア全集を日本で初めて刊行したことを記念して建てられたものです。実はそれ以前にも、「大隈庭園」の中に劇場を作ろうという構想があったようなのですが、関東大震災で頓挫してしまい、のちに博物館の構想に変わって実現したということです。2018(平成30)年に90周年を迎えるにあたって、館内の大規模なリニューアルを行い、この3月にリニューアルオープンをしたところです。

早稲田大学坪内博士記念演劇博物館
早稲田大学坪内博士記念演劇博物館

建物はエリザベス朝時代のイギリスの劇場「フォーチュン座」を模して設計されており、建物の正面に舞台があるという点が、大きな特徴になっています。「早稲田大学」のキャンパス内にある博物館ですが、どなたでも自由に、無料で入っていただける博物館となっています。

――資料の収集方針、特徴的なコレクションについて教えてください。

当館には約100万点の資料が収蔵されています。演劇の資料はいわゆる「名品」だけではなく、普通の人が見たら何ということはないもの、たとえばチラシ1枚についても、演劇史の資料としては重要な場合があります。そのため「演劇に関わるあらゆるもの」が集められ、博物館全体の水準から見ても、かなり多い所蔵点数となっているわけです。

3階常設展示室「世界の演劇 ヨーロッパ・アメリカ」
3階常設展示室「世界の演劇 ヨーロッパ・アメリカ」

また、開館当初から、坪内逍遙のポリシーとして「古今東西の資料を集める」ということを掲げておりますので、時代や地域を限定することなく、演劇に関するものであれば、世界中の資料を収集しています。総合的な演劇博物館という意味では、アジアで唯一だと思います。

逍遙自身が浮世絵、中でも「役者絵」と呼ばれるものの熱心なコレクターでして、この博物館も、もともとは役者絵を飾るために構想されたといわれているほどですので、世界有数のコレクションかと思います。もちろん歌舞伎、浄瑠璃などに関する資料も、世界有数のレベルです。
一般的に「エンパク」といえば歌舞伎や文楽といった印象が強いようなのですが、古いものだけではなくて、現代の資料も集めていますので、そこは強調しておきたいところです。たとえばテレビドラマに関する資料や、映像資料なども収集しています。

――館内ではどのような展示をしているのでしょうか?

まず、常設展示が3階にありまして、これも今回大幅にリニューアルしたものですが、日本の芸能・演劇について、古代から近世、近代、現代と時代ごとに区切って、映像資料も交えながら展示をしております。また、「世界の演劇 ヨーロッパ・アメリカ」と銘打ちまして、欧米の演劇に関する展示を行っている部屋もあります。

3階常設展示室「近世・近代I」
3階常設展示室「近世・近代I」

2階は企画展示がメインとなっていまして、春季展、秋季展と年に2回の企画展を行っています。いまは「ニッポンのエンターテインメント 歌舞伎と文楽のエンパク玉手箱」という展示を開催しています。2階の一角は「逍遙記念室」になっておりまして、こちらは逍遙が使用していた部屋をそのまま使っているのですが、実際に使っていたペンや眼鏡なども見ていただけますし、天井の装飾なども見どころです。

逍遙記念室
逍遙記念室

1階には資料を閲覧する「閲覧室」があるほか、90周年リニューアルで「京マチ子記念特別展示室」を設け、その部屋の中にミニシアターを作りました。京マチ子さんが出ている作品をはじめ、常時古今の名作映画やテレビ作品などの映像を楽しめるようになっていますので、こちらも気軽に来ていただければと思います。

京マチ子記念特別展示室
京マチ子記念特別展示室

――演劇や古典芸能だけではなく、テレビドラマも対象にしているのですね。

そうですね。歌舞伎や文楽は高尚な文化で、テレビは大衆的な文化、というイメージを持った方も多いと思うのですが、当館ではそういった区別をせずに、同じように大事な文化として取り扱っています。
昨年は「テレビの見る夢-大テレビドラマ博覧会」という名称で、局の垣根を超えた、通史的なテレビドラマ展を行いましたが、こういった展示というのは、実は今までありそうで無かったものかと思います。そのため展示をご覧になった方々からの反響が大きくて、第2弾を望む声も多数いただいております。

話題性と「現代との接点」を意識した企画で、満員御礼のイベントを開催

――イベントも数多く企画されていて、人気が高いと聞きました。どのようなものがあるのでしょうか?

イベントには大きく分けて2つ、展示に関連したイベントと、文化庁の補助を受けて、地域の文化振興のために行っているイベントがあります。年間を通して見れば、かなりの数をやっています。
たとえば今は、「歌舞伎と文楽」に関する企画展をやっていますので、ちょうどそろって襲名されたばかりの高麗屋さん(歌舞伎の屋号)3代おそろいになるトークイベントを企画していますし、昨年は「大テレビドラマ博覧会」という企画展がありましたので、人気ドラマの脚本家やディレクターの方をお呼びして、トークショーなども開催しました。

この時には、映画監督の是枝裕和さん、ドラマ『カルテット』の脚本を書かれた坂元裕二さん、ドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』の脚本を書かれた野木亜紀子さん、俳優の尾野真千子さんなど、話題性の高い皆さんをお招きしたので、大変な人気でした。

2016(平成28)年には、「落語とメディア」をテーマにした展示期間中、人間国宝の柳家小三治師匠にご一席口演いただきました。当館では、古いものをテーマにする時には必ず「現代との接点」を用意することにしているのですが、その時は落語をテーマにした漫画・アニメの『昭和元禄落語心中』をセットにして展示し、イベントではアニメの声優さんと落語家の柳家喬太郎師匠にお越しいただき、作品にちなんだ一席を披露していただいたりと、これも講堂が満員になるくらいの大盛況でした。

トークイべント「柳家喬太郎×『昭和元禄落語心中』」(2016)(C)Arata Mino
トークイべント「柳家喬太郎×『昭和元禄落語心中』」(2016)(C)Arata Mino

地域の文化振興のため、子どもたち向けのイベントも

――「地域の文化振興のために行っているイベント」についても教えてください。

こちらは、文化庁から補助をいただいて行っている事業で、去年から始めた「こども演劇教室」や、その以前に開いていていた、「こども映画教室」といったものがあります。どちらも子ども向けですが、非常に豪華で、映画教室は是枝監督が先生でしたし、演劇教室は平田オリザさんが先生になって、小・中学生を対象に教えてくださっています。受講料は無料です。
このほか、特別支援学級に狂言の役者さんをお連れしワークショップを行ったり、去年はリニューアルのための休館中に何もない展示室を使って、柄本明さんの劇団「東京乾電池」に公演していただいたりもしました。

エンパク★こども演劇教室2017 演じるってなんだろう?(2017)
エンパク★こども演劇教室2017 演じるってなんだろう?(2017)

わかりやすい内容の展示で身近に演劇・文化を感じていただく

――観覧のコツがあれば教えてください。

以前は“研究者向け”の展示内容が多かったのですが、どなたでもわかりやすい展示に変えてきましたので、「まずは気軽に来ていただきたい」というのが第一です。特にデジタルアーカイブと、舞台記録の映像等の展示を増やしましたので、まずは視覚的なところから、演劇に触れていただきたいと思っています。テレビドラマのコーナーや、顔出しパネルで撮影できるコーナー、宝塚歌劇団の衣裳の展示などもありますので、そういったところでも、身近に感じていただければと思います。

宝塚歌劇団の衣裳展示と顔出しパネル
宝塚歌劇団の衣裳展示と顔出しパネル

あとはやはり、建物でしょうか。ここは館内に入る時にも、自動ドアではないですから、ドアノブを回して入らなくてはいけなくて、ひょっとしたら、ちょっと入りにくいと感じられるかもしれないのですが、館内の雰囲気、ギシギシと鳴る床、窓から外の舞台を見下ろす景色、そういった部分も楽しんでいただければと思います。

荘厳な佇まいの建物も一つの展示物として楽しめる
荘厳な佇まいの建物も一つの展示物として楽しめる

――最後に、早稲田エリアの魅力を教えてください。

やはり早稲田は学生の街ですので、「活気がある」という点が一番の魅力だと思いますが、加えて、「文化的なものに日常的に触れられる」という点も魅力なんじゃないかな、と思います。

エンパクでもさまざまなイベントをやっていますが、ほかにも、「南門(なんもん)通り商店街」の一角には、「早稲田小劇場どらま館」という小さな劇場がありまして、ここでは学生劇団だけではなく、プロの舞台も見られますから、ぜひおすすめしたいですね。しかも格安なんですよ。

大学構内には、エンパク以外にも「早稲田大学歴史館」や「會津八一(あいづやいち)記念博物館」など、誰でも入れる博物館が色々ありますので、こういったものも活かしていただきながら、文化を身近に感じていただければ、と思っています。

早稲田大学坪内博士記念演劇博物館 館長:岡室美奈子さん
早稲田大学坪内博士記念演劇博物館 館長:岡室美奈子さん

坪内博士記念演劇博物館

館長:岡室美奈子さん
所在地:東京都新宿区西早稲田1-6-1
電話番号:03-5286-1829
URL:https://www.waseda.jp/enpaku/
※この情報は2018(平成30)年5月時点のものです。