哲学堂公園 インタビュー

哲学を視覚的、立体的に実体験として感じることができる“哲学のテーマパーク”

中野区にある「哲学堂公園」は、普段なかなか触れることのない哲学について視覚的、立体的に実体験として感じることができる全国でも例を見ない“哲学のテーマパーク”となっている。「哲学のまち・中野」をテーマに掲げる中野区では、「哲学堂公園」を中心としたまちづくりの整備計画が進められており、あらたな観光の拠点として注目が集まっている。今回は「哲学堂公園」の運営、管理を担う日本体育施設グループの植竹薫さんに「哲学堂公園」の概要や魅力についてお話を伺った。

東洋大学の創立者であり哲学者の故・井上円了が創設した精神修養の場

屋根の軒先には印象的な「哲」の字が
屋根の軒先には印象的な「哲」の字が

――公園の概要、沿革について教えてください

植竹さん:「哲学堂公園」は中野区にある区立公園のひとつで、東洋大学の創立者であり哲学者の故・井上円了(いのうええんりょう)博士によって1904(明治37)年に創設されました。哲学世界を視覚的に表現し、精神修養や社会教育の場として整備された全国でも例を見ない“哲学のテーマパーク”となっています。

公園の敷地内には井上円了の哲学観を立体的に表現した77ヵ所の見どころ「哲学堂七十七場(てつがくどうななじゅうななば)」があるほか、野球場やテニスコート、弓道場といった運動施設も整備されています。

文献によると1955(昭和30)年の後半までにほぼ現在の公園のかたちが整えられたようで、1975(昭和50)年に東京都から中野区へ移管された後は、1984(昭和59)年に古建築物6棟が中野区の有形文化財に指定されると、1988(昭和63)年には公園全体が中野区の有形文化財として指定され、2009(平成21)年には東京都名勝公園の指定も受けました。

世界的な哲学者を一堂に会し祀られた歴史的な古建築物

孔子と釈迦、ソクラテスとカントの四大哲学者を祀る「四聖堂」
孔子と釈迦、ソクラテスとカントの四大哲学者を祀る「四聖堂」

――有形文化財に指定されている建物についてご紹介ください

植竹さん:これまでに中野区の有形文化財に指定されている建物は12棟で、1984(昭和59)年に指定された哲理門・四聖堂・宇宙館・絶対城・六賢台・三学亭と、1988(昭和63)年に指定された常識門・髑髏庵・鬼神窟・無尽蔵・演繹観・四阿があります。

代表的な建物をいくつかご紹介すると、「四聖堂(しせいどう)」は哲学堂の本尊が置かれている中心的な建物で、世界的な哲学者の孔子・釈迦・カント・ソクラテスの四聖が祀られています。

またその隣にある朱塗りの塔は「六賢台(ろっけんだい)」と呼ばれ、東洋的な哲学者として、日本の聖徳太子・菅原道真、中国の荘子・朱子、印度の龍樹・迦毘羅仙の6人が六賢として祀られています。

朱塗りの塔「六賢台」
朱塗りの塔「六賢台」

その他にも、大正天皇の即位を記念する図書館として建設された「絶対城(ぜったいじょう)」や、井上円了が国内各地を周遊した時に収集した記念品などを展示した陳列所「無尽蔵(むじんぞう)」など、一部の建物は春期(4/29~5/5)と秋期(10/1~10/30※土日祝日のみ)、毎月第一日曜日にも公開されています。

“ものの考え方”が体系的に学べるよう設計された「哲学堂七十七場」

不可解の象徴「哲理門」
不可解の象徴「哲理門」

――公園が表現する哲学についてお教えください

植竹さん:「哲学堂公園」には、井上円了の哲学観を視覚的、立体的に表現した「哲学堂七十七場」があり、この「哲学堂七十七場」を巡ることで“ものの考え方”が体系的に学べるよう設計されています。

哲学と聞くと何だかすごく難しい学問に感じられるかと思いますが、古代のギリシア哲学は現在の自然科学と同じように、ある現象に法則性を見出していったり、どうしてそういう現象が起こるのかといった未知の探求からはじまった学問です。

円了が刻まれた碑
円了が刻まれた碑

哲学にも唯心論や唯物論のようにまったく異なる正反対の考え方もあるのですが、どの考えが正しくてどれが間違っているかということが大切なのではなく、未知のものへの探求のアプローチが違うというだけであって、その違いを含めて視覚的に表現しているのがこの公園の特徴です。

ものの考え方というのもいきなり答えにたどり着くものもあれば、まわりの状況を踏まえて結論づけるものまでさまざまです。それをたとえば直登ルートの園路と迂回してくねくねしている園路との違いで表現していたりと、井上円了の哲学観が表現されています。

「哲学堂公園」を“哲学のテーマパーク”という表現で紹介しているのは、哲学に関する説明書きを読んでただ頭で理解するというだけではなく、七十七場に実際に足を運び、目で見て、または体験することによって実体験として哲学やものの考え方が分かるように構成された特殊な空間であることからそう名付けました。

東洋大学との連携事業で制作した「哲学堂七十七場紹介ビデオ」

おやつにぴったりの「哲学堂揚煎」
おやつにぴったりの「哲学堂揚煎」

――東洋大学と連携して行った取り組みについてもお聞かせください

植竹さん:東洋大学との連携事業で「哲学堂公園」がどのような場所なのかということを理解いただくためのひとつの手段として「哲学堂七十七場紹介ビデオ」というVTRを制作いたしました。

東洋大学の社会学部メディアコミュニケーション学科の学生さんにご協力をいただき、約1年という歳月をかけて撮影・編集いただきました。映像がリリースされたのは平成27年度末のことで、全22巻に総集編3巻を加えた作品として仕上がりました。

公園のホームページからもご覧いただけるのですが、1巻がおよそ5分前後の作品で、YouTubeに公開し一般の方にも広くご覧いただけるようにしています。

東洋大学の学生と協力し、公園を紹介するVTRを制作
東洋大学の学生と協力し、公園を紹介するVTRを制作

また現在は、井上円了研究の第一人者であるドイツ人のライナ・シュルツァ先生にもご協力をいただき、制作したVTRの翻訳作業をお願いしているところです。

特に哲学の用語は難解なものが多く、英語でどう表現するかという大きな課題があるのですが、井上円了に造詣の深いライナ・シュルツァ先生だからこそ、より多くの方にご理解いただける訳文を本作品を通じてご紹介できると思います。

現在、YouTubeでも映像を公開しているのは、国内だけではなく海外の方にも「哲学堂公園」を発信していきたいと考えているためで、英語のテロップを付けることで公園の魅力やその価値を世界中の方に知っていただくひとつのきっかけになればと考えています。

幼児から高齢者まで幅広い年齢層が参加できる多彩なプログラムを実施

イベント掲示板
イベント掲示板

――「哲学堂公園」で開催されているイベントはございますか?

植竹さん:「哲学堂公園」には、野球場やテニスコート、弓道場といった運動施設も整備されているため、スポーツに関連した事業から文化的な取り組みまで年間を通じてさまざまなイベントやプログラムが行われています。

たとえばスポーツに関連する事業では、毎月第1・3月曜日に行われる「健康体操教室」や子育てママを対象にした「ママフィット」、毎月第2水曜日の「ノルディックウォーキング教室」といった大人向けのプログラムから、小学6年生までの子どもを対象にした「中野ベースボールアカデミー」(毎週金曜日)や毎月第4土曜日には「スポーツ吹矢体験教室」もあり、幼児から高齢者まで幅広い年齢層が参加できる運動プログラムを提供しています。

また文化的な取り組みでは、東洋大学と連携して行う「哲学堂公園講座」を9月と3月に開催したり、中野区と東洋大学との連携事業として行う無料の公開講座「一から学ぶ哲学堂」を12月に開催したりと、公園や井上円了について多くの方に知っていただく事業にも取り組んでいます。

階段ひとつにも意味がある
階段ひとつにも意味がある

古建築物を利活用した事業や伝統的な文化・芸能に親しむことのできるイベントも開催し、5月と10月に行う「茶の湯体験」や「美味しいお茶のいれ方教室」など、ホームページでも情報を発信していますのでぜひご覧ください。

「哲学堂公園」で行われている取り組みは他にも、都心部では貴重な公園の自然環境を生かしたプログラムもあり、「哲学堂公園」の植栽や樹林等の育成・活用に関わる事業や、管理作業のなかで得られた廃材等を活用した工作教室など、公園の資源を活かして身近な自然に触れられる機会も提供しています。

7月の「七夕飾り」や夏休みを利用して行われる「廃材クラフト」、公園内で集められた自然の材料で作る「クリスマスリース作り」など親子で楽しめる人気のプログラムです。

地域の人と一緒に活動し整備している公園内の美しい景観

唯心庭とともに哲学的二名勝の一つ、唯物園
唯心庭とともに哲学的二名勝の一つ、唯物園

――園内の見どころや楽しみ方についてお教えください

植竹さん:「哲学堂七十七場」を散策しながら井上円了の哲学観に触れていただけるのはもちろん、春には桜が咲き誇り都内でも有数の桜の名所として賑わいます。

また2009(平成21)年度には「哲学の庭」という場所も新たに見どころとして加わりました。ハンガリー出身の彫刻家で日本でも活動していたワグナー・ナンドール(Wagner Nandor、和久奈南都留)氏が制作した作品で、老子やキリスト、ガンジーや聖徳太子といった世界を代表する11人の立像が配置されています。

日本とハンガリーの外交関係開設140年と国交回復50周年の記念事業の一環として中野区に寄贈されたもので、同様のものがハンガリーの首都ブダペストにも設置されているそうです。

本作品には民族や歴史、文化などを超えた人類の恒久的な平和を理想として追求した作者の思いが込められていて、中野区から管理を委託されている私たちとしても気軽に写真撮影をしたり芝生の上で休憩などをしたりする場所とは違いますよということを啓発しています。

新たな見どころ「哲学の庭」
新たな見どころ「哲学の庭」

園内には私たち「日本体育施設グループ」のスタッフのほかにも、区民の自主的な活動を推進する「哲学堂パーククラブ」という組織のメンバーもいらっしゃって、「公園ガイド活動」や「花壇育成活動」などさまざまな場面でご協力いただいています。

「公園ガイド活動」は、春と秋の古建築物公開日や月一の月例公開時を中心に、公園ガイドメンバーが希望する観覧者に対して園内のガイド活動を実施しています。

また「花壇育成活動」は、毎月第1・3土曜日に活動を実施し、園内各所の花壇のお手入れや野草の増殖等さまざまな活動に取り組んでおられます。

「物」という字が造形された「物字壇」
「物」という字が造形された「物字壇」

ほかにも地域団体等との連携事業の一環として、近隣の幼稚園や高齢者施設に入所する皆さまと協働して花苗を植える「ふれあい区民花壇」もあり、地域の皆さまと一緒になって整備している公園の美しい景観をぜひ楽しんでください。

また「歴史民俗資料館」との連携事業として実施している「文化財クイズラリー」もあり、両施設に関連したクイズの参加用紙も配布しているため、園内の散策がてら挑戦してみてください。全問正答された参加者には、賞品として哲理門の幽霊と天狗をモチーフとしたキャラクターシールをプレゼントしています。

「哲学のまち・なかの」をテーマに掲げ「哲学堂公園」を中心としたまちづくりを進めるために

哲学堂通り
哲学堂通り

――最後に「哲学のまち・なかの」について、地域の皆さまへのメッセージも含めてお聞かせください

植竹さん:中野区では現在、「哲学のまち・なかの」をテーマに掲げて「哲学堂公園」を中心としたまちづくりと環境整備を進めていますが、「哲学堂公園」でムーブメントを興していくには、まず近隣地域の方々が「哲学堂公園」とはどういった場所なのか、井上円了がどういう思いでこの公園を創設したかということについて知る機会が必要であり、まだまだ知られていない部分が多いかと思います。

定期的に開催している講座や展示を通じて、「はじめて公園の成り立ちを知りました!」という方もいらっしゃいますし、地域の教育または郷土の勉強をする機会の大切さを感じています。

私たちが作ったVTRもそういったことを醸成してくれるひとつの手段として機能してくれれば良いのかなとも思いますし、ライナ・シュルツァ先生による翻訳をはじめ、園内のサインを多言語表記にしたり、ケータイ端末の普及に合わせた情報提供の仕組みに変えていこうといったアイデアもあったり、2020年をひとつの契機にしてさまざまな取り組みを進めて参ります。

多言語表示のパンフレット
多言語表示のパンフレット

中野区の整備計画によると、当時の姿に復元していこうとする保存管理計画と称された大きい事業計画もあり、現存している建物の調査、再整備をしつつ、当時の資料や写真を参考に植栽や園路構成も見直していくようです。

最近、街では哲学好きが集まる哲学バーといった場所もあるようですが、哲学というものを観光として打ち出していくためには管理、運営を託された私たちも少なからず勉強しておかないといけませんし、東洋大学との連携事業で実施する講演講座等にスタッフも参加させていただき、「哲学堂公園」の魅力を国内外に広めていけるよう今後も努力して参ります。

哲学を視覚的、立体的に実体験として感じることができる“哲学のテーマパーク”
哲学を視覚的、立体的に実体験として感じることができる“哲学のテーマパーク”

日本体育施設グループ(中野区運動施設および哲学堂公園指定管理者)

統括責任者 植竹薫さん
所在地 :東京都中野区松が丘1−34−28
電話番号:03-3951-2515
URL:http://www.tetsugakudo.jp/top.htm
※この情報は2017(平成29)年12月時点のものです。