スペシャルインタビュー

下町ならではの人懐っこさで地域とつながる「江東区立北砂小学校」

「北砂小学校」の正門
「北砂小学校」の正門

川沿いの緑豊かな横十間川親水公園や広大な敷地を誇る猿江恩賜公園など、江東区のなかでもこの住吉・西大島地区は自然を身近に感じられるエリア。同時に下町情緒あふれる「砂町銀座商店街」や大型のショッピングモール「アリオ北砂」などもあり、住むにはもってこいの街でもある。そんな街の中心にある北砂小学校の原弘義校長に、学校での取り組みや地域の魅力について伺った。

2016(平成28)年から北砂小学校に着任されている原校長
2016(平成28)年から北砂小学校に着任されている原校長

―― 北砂小学校の概要について教えてください。

原校長:本校は1975(昭和50)年に開校し、今年で47年目を迎えます。2021(令和3)年の今年度は新入生78名を新たに迎え、全校生徒452名で元気に学校生活を送っています。1997(平成9)年頃〜10年間は児童数も200名以下に減少しましたが、再開発やマンション建設などで再び増加傾向にあります。 学校の敷地は幕末から明治にかけて活躍したジョン万次郎の屋敷跡地にあたり、校門から入ってすぐの右手に彼の功績を讃える掲示板が置かれています。

正門横にあるジョン万次郎の掲示
正門横にあるジョン万次郎の掲示

授業力を向上させて、児童が安心して学ぶことができる学校に

――学校の経営方針や教育目標についてもお聞かせいただけますか。

原校長:昨年(令和2年)から江東区教育委員会の研究協力校の指定を受け、研究を進めています。内容は、教員の授業力を上げることで、児童が安心して授業を受け学校生活を送ることができるということです。つまり授業が安定していれば、クラス全体の雰囲気は落ち着くということです。

そして全教職員が「担任を持つクラス以外の副担任である」という意識で児童に接し、横の連携力を向上させてくことが学校の安定化につながると考えています。 そこで今年度は「全教員の授業力の向上、担任以外は副担任」を経営方針とし、副題として「判断基準はこども」という項目を入れました。

教育目標はこれまで通り、「かんがえる子(知)・やさしい子(徳)・げんきな子(体)」ですが、特に「かんがえる子(知)」の論理的思考力の育成には力を入れています。

原校長先生手作りの北砂小のトリセツ「よくわかる北砂小学校」
原校長先生手作りの北砂小のトリセツ「よくわかる北砂小学校」

――「授業力の向上」とは、具体的にはどのようにするのですか?

原校長:子どもは退屈すれば教師の話など聞いてくれませんし、集中力ももちません。子どもを惹きつける授業、魅力のある授業、学び甲斐のある授業ができれば、学力がつきクラスもまとまってきます。

具体的には「つかむ→考える→学び合う→まとめる」という4つの学習過程を、どの授業でも共通して取り入れています。「つかむ」でこれから始まる授業の課題や流れを説明し、「考える」で自主的に考えさせ、「学び合う」で友達の考えを聞いたり参考にしたりして主体的に関わり、「まとめる」で学んだことをさらに深めて考える。これを繰り返して行うことで、先生も児童も「今やるべきこと」を意識しながら授業に取り組むことができます。

しかし、これはあくまでも枠組みです。授業の内容は教員一人一人が考えて充実を図っていきます。ただ、枠組みが決まっていると、より深くスムーズに授業を進めることができます。

校庭の四分の一が広々とした芝生広場になっている
校庭の四分の一が広々とした芝生広場になっている

論理的思考力を育てて根拠や理由を説明できる子へ

――論理的思考力の育成に力を入れるとのことですが。

原校長:今回の校内研究テーマが「どの子も伸ばす北砂スタイル〜根拠や理由を明らかにした論理的思考力の育成」です。「なんとなくそう思った」というのではなく、そう考えた理由やその根拠になる部分を挙げながら自分の考えを発表するなど、授業を進めるなかで一歩ずつ論理的思考を身につけていくことができればと考えています。江東区が「どの子も伸びる江東区」というスローガンを掲げていますが、本校では学校をあげて「どの子も伸ばす」という気持ちを込めて、この研究テーマにしました。

――「すべての判断基準は、こども」というサブテーマもユニークですね。

原校長:私が副校長時代に、当時の校長先生から教わったことです。どんなに教師が頑張っても、子どもにとってプラスにならなければ意味がない。逆に子どもによいことであれば、多少無理があっても教員は頑張りましょう、ということです。教員の仕事もスリム化を目指す時代ですが、子どものためになることなら、やる価値はあります。

今年から始まったGIGAスクールも、タブレットの扱いやオンラインでのやりとりは得意な教員はさらりとこなしますが、苦手な教員にとっては苦労があります。それでも子どもの学習のプラスになることですし、ひいては自分の勉強になるかもしれない。新しいことへの挑戦はエネルギーがいりますが、子どもにも教員にも刺激になりますからね。

「北砂小学校」校内 ~夏休み中の静かな風景~
「北砂小学校」校内 ~夏休み中の静かな風景~

――前回お伺いしたときには、4つの言葉「はい・ありがとう・ごめんなさい・お願いします」と丁寧語「です・ます」の指導をされているとのことでした。継続された現在はいかがですか。

原校長:これがなかなか難しい(笑)。こちらから催促したりしながら、一歩一歩やっています。実はこの丁寧な言葉づかいは、「感情的になるのをおさえる」という教員にとってプラスの側面もあるのです。教員も人間ですから、頭にくることも冷静ではいられないときもあります。そんなとき、あえて丁寧な言葉づかいをすることで、不用意な言葉を子どもにぶつけることもなくなります。

だから授業中は率先して丁寧な言葉で話すよう、教員に指導しています。夢や大きな可能性・人間力をもって教育界に飛び込んできた教員集団ですから、感情のコントロール方法をうまく習得して、教育活動に集中してほしいと思っています。

パラリンピックは校長室で小規模パブリックビューイング
パラリンピックは校長室で小規模パブリックビューイング

子どもに合った個別最適な学びができるGIGAスクール始動

――1人1台の端末を貸し出し、各児童の学習ペースに合わせた授業を展開するGIGAスクール構想について教えてください。

原校長:今年度から始まったGIGAスクールは、江東区が区内の小中学校のすべての児童・生徒にChromebook端末を貸し出し、家庭ではオンライン教材を使った「予習・復習・ドリル学習」に、学校では「調べ学習・意見の発表・個別学習」に活用するというものです。一人一人の児童に合った個別最適な学びや協働学習ができることが、最大のメリットです。夏休み期間中に、全児童がタブレットを同時使用できる通信環境が整備されました。教員が、子どもとチャットで話したり、宿題の指示を出したりと、少しずつ活用しています。

江東区教育委員会から低学年〜高学年まで、「電源を入れる」ところから、ネットで検索した素材を使って編集作業や交流学習を行うところまで、細かな到達度レベルの指針が出されていますので、それに沿って学習用具の一つとして活用していきます。まだ授業の最後に、到達度チェックや進度別・能力別など個々の学習に必要な場合に役立てようという段階です。私は、授業は「あくまでも対面式が基本」と考えています。また情報端末を扱ううえで、子どもたちはモラルやルールを学習する必要があるので、そちらの指導も同時に行う予定です。

明るい光が差し込む1年生の教室
明るい光が差し込む1年生の教室

――「江東きっずクラブ」の概要や最近行われている試みなどがあれば教えてください。

原校長:特に大きな変化はありませんが、江東区でもかなり力を入れていて、きっずクラブ専属の先生以外にも応援の指導員やスタッフが増えています。職員はこの北砂地域の方々なので、学校への興味関心が高まっているのかなと嬉しく感じます。江東きっずクラブは親が働く子ども対象の「B登録」と、親の就労に関わらず自主的な放課後活動の場を「A登録」となっています。A登録には定員がないので、もしB登録に入れなくても子どもの放課後の居場所が確保できるシステムです。学童に入れないなどの心配がある区もあるようですが、江東区は働く保護者にとっては安心できる環境だと思います。

広々とした体育館 ~夏休み中は、ここできっずの子どもたちがオンライン学習を展開~
広々とした体育館 ~夏休み中は、ここできっずの子どもたちがオンライン学習を展開~

――北砂エリアの教育環境についてお聞かせください。

原校長:とにかく下町らしさがまだまだ生きている街なので、学校にも協力的ですし、教育にも熱心。今はコロナでなかなか実現しませんが、行事の際も「普段は仕事で行かれないけど……」とスポットでお手伝いしてくれる方々がサッと集まるような気風があります。

町内会のお祭りは校庭にやぐらを建てて盆踊りをするのですが、出店やテントが出て、地域の人たちが一同に集まり盛り上がります。このあたりは地域活動が盛んで、北砂1丁目こども会というのが独立してあります。「もちつき」や夏恒例の「どじょうつかみ」のイベントなどもあり、学校が場所を提供して活動することもあります。イベントをやっていれば、こども会に入っていなくても、子ども同士は混じって遊びますからね。そうすると、大人同士も自然と仲良くなって、わいわい楽しそうに交流していますよ。 ですから引っ越しされてきても、子どもを中心に知り合いができて、そのまま小学校でPTA活動にも参加しやすくなる、という自然な流れができると思います。やはり子どもがいれば、親同士がほどよく繋がっている方が安心できるでしょう。

町内会の夏祭りでやぐらを建てて盆踊りをする校庭
町内会の夏祭りでやぐらを建てて盆踊りをする校庭

――この地域の魅力はどんなところでしょうか。

原校長:なんと言っても人情があって温かくて、私は大好きですね。マンション暮らしの子も多いですが、この辺りは親子三代で一緒に住んでいたり、おじいちゃん・おばあちゃんの近くに住んでいたりするという家庭も多いです。そのため、近所のおじちゃん・おばちゃんたちと気軽に挨拶を交わすなど、地域でのコミュニケーションがしっかり取れているという印象があります。

私が好きな風景は、学校のすぐ近くの「クローバー橋」。小名木川と横十間川が交わるところに十字に橋がかかっているのですが、そこから「東京スカイツリー」を眺める風景は壮観です。そもそも川がクロスしていること自体が珍しく、水彩都市といわれる江東区らしいユニークな風景ですが、そこに十字の橋を掛けるという発想が面白いと思います。

小名木川と横十間川が交差する上にかかるクローバー橋
小名木川と横十間川が交差する上にかかるクローバー橋

原弘義 校長先生
原弘義 校長先生

江東区立北砂小学校
原弘義 校長先生

所在地: 東京都江東区北砂1-3-36
電話番号: 03-3649-3463
URL:http://kitasuna-sho.koto.ed.jp
※この情報は2021(令和3)年9月時点のものです。