地域と連携した交流活動に積極的に取り組む「杏林大学」、大学・地域が相互に与えるメリットとは?

2016(平成28)年に創立50周年を迎え「井の頭キャンパス」を新たに開設した杏林大学。医学部をはじめ4学部15学科を設置する総合大学で、キャンパスのある三鷹市をはじめ八王子市、羽村市など地域と連携した地域交流活動にも積極的に取り組んでいる。今回は大学と地域との関わりについて、広報・企画調査室の中村さんと、外国語学部観光交流文化学科の准教授であり地域交流推進室室長の古本先生にお話を伺った。

戦後初の医学部認可を受けた、4学部15学科からなる総合大学

――学校の概要、沿革についてお聞かせください

「杏林大学」は、医学部、保健学部、総合政策学部、外国語学部の4学部15学科を設置している総合大学で、1966(昭和41)年の創設より52年目を迎えます。「杏林大学医学部付属病院」の前身である三鷹新川病院(1954年設立)が母体で、私立大学としては川崎医科大学、北里大学とならんで戦後初の医学部の認可を受けた学校としての歴史もあります。

JR「三鷹」駅からバスで20分ほどの場所に付属病院と医学部、保健学部看護学科看護学専攻の学生が通う「三鷹キャンパス」があり、創立50周年を迎えた2016年には徒歩10分の場所に「井の頭キャンパス」を新たに開設しました。

2016年に開校した「井の頭キャンパス」ではじまる新しい学びのかたち

――「井の頭キャンパス」の新設によって変わったことは?

駅からの通学の利便性が向上したことと、1年生の必修で4学部の学生が一緒に学ぶ授業ができました。科目名は「地域と大学」で、地域における大学の役割や地域の課題などについて4学部混成のグループワークなどを通して学びます。

他学部の学生が一緒に席を並べて学ぶというのはなかなか無い機会だと思うのですが、参加した学生からは「他学部の新しい友人と知り合いになれて良かった」「話し合う中で意思の疎通ができたことが嬉しかった」といった感想もあり、次の50年、100年先に向けた本学の特色となる新たな取り組みとなっています。

街の一部として大学があることのメリットと重要性

――地域における大学の役割とは?

本学が2013年(平成25年)に文部科学省の採択を受けた「地(知)の拠点整備事業(COC:Center of Community)」を通じて、包括的な地域連携に取り組んだことからも分かるように、地域において大学が果たす役割というのは非常に大きなものになっています。

地域にとって「井の頭キャンパス」ができたことの意味というのは大きく3つあります。まずひとつはハードウェアとしての建物があるということ。たとえば図書館は、事前登録(有料)により本学の学生以外でも18歳以上であれば利用できますし、図書の貸出しをすることもできます。また食堂にご飯を食べにくるご近所の方もいますし、近くにある保育園のお子さんはほぼ毎日散歩がてらキャンパスに遊びに来ています。そういう意味での街の機能のひとつとして役割を果たしています。

2つ目は学び直しのプログラム(ブラッシュアッププログラム)です。「高齢社会における地域活性化コーディネーター養成プログラム」(有料)として、高齢者に限らず社会人を対象とした学び直しのプログラムを提供しています。すでに何らかの地域活動を行っている方を対象に現在およそ20人が受講していますが、大学の授業にそのまま参加いただけます。また受講料無料の「公開講演会」というのも実施していて、年間で25回程度ある講演会にのべ2,000人以上もの方が参加しています。

そして3つ目は地域連携です。「地(知)の拠点整備事業(COC)」の重要なポイントですが、大学が地域の知的な財産として機能すること、また地域と連携を組んで一緒に地域の課題に取り込んでいくことが求められています。

「地(知)の拠点整備事業」はいったん終了したのですが、その取り組みをベースに三鷹市や他の行政と取り組んで来たことは継続して続けていこうと思います。またその一方で、岩手大学などと連携して取り組む「地(知)の拠点大学による地方創生推進事業(COC+):ふるさといわて創造プロジェクト」もスタートし、新たな地域連携の取り組みも開始しています。

学部ごとの特性を生かしたさまざまな地域交流活動を展開

――地域と連携を組んで一緒に取り込んだことは?

本学では、キャンパスのある三鷹市、八王子市、そして羽村市の3市と連携し、それぞれの学部での学びの特性を生かしたいろいろな取り組みを行ってきました。たとえば健康福祉学科・看護学科を中心に、4、5歳の未就学の子どもたちに“いのちの大切さ”と“自分の体を自分で守ることの大切さ”を伝える「いのちのおはなし会」というものを行いました。

また救急救命学科の学生と教員は、三鷹市の総合防災訓練で一般市民を相手にBLS( Basic Life Support)の指導に携わっています。BLSとは心肺停止または呼吸停止に対する1次救命処置のことで、AEDの使用法や心肺蘇生の方法について指導しました。

ほかにも、総合政策学部の学生はJR「三鷹」駅の駅ビル「アトレヴィ三鷹」とコラボして情報誌「みたから」を発行したり、外国語学部観光交流文化学科ではJR東日本八王子支社ならびに三鷹市観光協会と協働して、「三鷹」駅をスタート地点にした「駅からハイキング」のプログラムを考案したりしました。

地域と大学それぞれにとってプラスをもたらす地域交流活動

――地域交流活動とボランティアとの違いは?

ボランティアではなく地域交流活動と謳っているのは、大学が一方的に行うのではなく、大学も地域から様々なことを学んでいるからです。たとえば「地(知)の拠点整備事業」を通して地域の課題に取り組むなかで、学生も地域の人たちと接触して楽しいと感じたり、教室では学べないようなことを経験したりする機会がありました。教員も自身の直接的な研究につながらなかったとしても、学生の成長を後押しできるのはとても重要なことなので、おたがいにとって得るものがあるというのが地域交流活動の大切なポイントです。

そもそも卒業生や関係者を除く地域の方にとって大学というのはどこか敷居の高いところだと思われていると思います。地域交流推進室では、その垣根を下げることによって地域と大学の関係性をコーディネートしていくことが求められています。

住民自らが街の未来を考え、行動する

――地域の魅力についてお聞かせください

キャンパスのある三鷹市は都会過ぎずまた田舎過ぎず、武蔵野の良い雰囲気が残っているなと思います。また、吉祥寺のある武蔵野市もそうですが、地域に根付いている人が多いなという印象です。30代、40代のあたらしい世帯がどんどん増えてきている一方で、古くからこの地域に住まわれている方も多い地域なので、自分たちの街をどうするのかを話し合ったり、より良くするための新たな取り組みを誕生させたりすることを通じて、世代を超えた網の目のように地域活動が行われています。

最近もっとも耳にするのは防災関係で、子どもたちの防災力を高める「こどもぼうさい」という取り組みも行われているようです。三鷹市の行政としてもそういう活動を後押ししているので、いろいろな組織があったり、ボランティア団体が存在しているのは良いですね。

杏林大学が地域の皆さんの生活を豊かにできるように

――最後に地域の方へ向けてメッセージをお願いします

本学は病院を母体にした学校としてはじまり、地域医療連携を通じて地域とのつながりを長年にわたって培ってきました。「井の頭キャンパス」の新設によって、地域における大学の役割についてあらためて議論しておりますが、地域あっての大学ですから協力関係のもとでおたがい向上していけたらと思います。

街中でこれだけ地域に開かれているキャンパスはなかなか無いと思いますし、10月上旬に開催される学園祭「杏園祭」にも多くの方にお越しいただいています。過去には出張動物園を呼んでヤギや子馬を芝生の上で歩かせたり、仮面ライダーなどのヒーローショーをしたり、地域のお子さんもたくさんいらっしゃいました。もちろん学生による屋台や研究発表もありますし、講演会も行われます。新しいキャンパスの雰囲気を感じられる良い機会なのでぜひ足をお運びください。

また公開講演会については、ウェブサイトにも一覧を掲載しておりますが、事前にご登録いただいた方には月に1回ご案内のメールをお送りしています。また三鷹市の市報や近隣の薬局、自治体にポスターを掲出していただき、情報を発信しています。さらに公開講演会とは別に、付属病院のがんセンターでも独自にがんについての講演会を実施していますし、病院を母体とした学校としての強みを生かした取り組みを進めて参ります。

今後は、杏林大学が来てから楽しくなったね、面白いことが増えたね、と感じていただけることを創り出していきたいと思います。学生にとっての地域は学びの場の選択肢のひとつですが、地域の方にも杏林大学が来たことによって自分の人生の選択肢みたいなものが少しでも増えたと感じていただければと思います。

大学としてはその2方向の選択肢を充実させていくことがひとつの役割だと思っていますので、今後も地域の皆さまの生活がより豊かになるような教育・研究成果を還元していきたいと思います。

地域と連携した交流活動に積極的に取り組む「杏林大学」、大学・地域が相互に与えるメリットとは?
所在地:東京都三鷹市新川6-20-2 
電話番号:0422-44-0611
http://www.kyorin-u.ac.jp/

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