稲城市立南山小学校 校長 井上央先生 インタビュー

恵まれた環境を生かした地域のコミュニティ拠点「稲城市立南山小学校」

豊かな里山を有した稲城市南山地区は、その自然と里山の風景を残しながら宅地開発を進めてきた。その中心に建つ「稲城市立南山小学校」は、「高い防災機能と環境に配慮した学校」として4年前に開校し、地域や保護者コミュニティの中心的役割を果たすべく様々な取り組みを行っている。全校生徒18名という小規模人数でスタートした開校当時からを知る井上校長先生に、学校のこと、子どもたちのこと、地域のことを色々とお伺いした。

「やさしい気持ち」を大切に、大きな一つの家族のように

「稲城市立南山小学校」の外観
「稲城市立南山小学校」の外観

――学校の概要や歴史、教育目標を教えてください。

井上先生:本校は2015(平成27)年4月、全校生徒18名、教職員7名という小さな規模でスタートした学校です。2018(平成30)年度で開校4年目を迎え、1年生から6年生まで合計171名で新たな年度をスタートさせました。人数が少なかったこともあり開設当時から非常に家庭的な雰囲気で、多少規模は大きくなったものの、今なお子ども同士や先生も全員の顔と名前が一致しているという非常にアットホームな、一つの家族のような学校です。今後周辺の宅地開発が進むにつれ生徒数も右肩上がりに増えるとは思いますが、この温かい雰囲気だけは残していきたいと考えています。

お話を伺った井上校長先生
お話を伺った井上校長先生

教育目標には「よく考える子・やさしい子・たくましい子」を掲げ、特に「やさしい子」を重点目標としています。学校での友だちとのつながり、家庭での親子のつながりなど、やさしい気持ちで温かな人間関係づくりをできるような環境を整えたいと考えております。 学校周辺は新しく宅地開発された地域であり、これから新たに街や地域コミュニティをつくっていく場所です。子どもたちにはこの地に愛着を持って育ち、この地域に育ったことを誇りに思ってほしい。そしてこれからの街づくりの中核になる人材へと成長してほしいと思っています。そのためには学年をまたいだ横のつながりも重要ですし、保護者や地域の方々とも関係も構築する必要があります。人間関係をつくり強固にしていくには、「思いやり」や「やさしさ」が何よりも大切です。子どもたちを真ん中にして、教職員や保護者の方々、そして地域の方々とゆっくりつながっていければと思っています。

自分たちが暮らすのはどんな街なのかを知る「南山学習」

――特徴のある教育である「南山学習」について教えてください。

井上先生:南山学習とは、自分たちが住む地域「南山」をもっと深く知り、理解するための学習です。まずは自分たちの足元である学校施設からということで、4年前にできたこの校舎の防災機能と環境に配慮した設備について学んでいます。

本校では災害時の避難所や防災拠点になるべく、大きな防災倉庫が体育館の横に、マンホールトイレや発電機なども完備しています。体育館は避難所としてすぐに機能できるように、パーテーション付きの畳やテント式個室など避難所生活のストレスが軽減できるような備品が用意されていたり、大勢の人が寝泊まりした際の風通しを考えて、1階部分に大きな窓が作られたりしています。

地域の自然を校内に再現したビオトープ
地域の自然を校内に再現したビオトープ

環境にやさしい校舎という面では屋上に太陽光パネルを配置しているほか、屋上緑化にも取り組んでいます。屋上緑化のスペースは、定期的に子どもたちが苗木を植えたり、雑草取りをして日々メンテナンスを行っています。また地域の自然を学校内に取り入れようと、昔からこの地域にあるお寺に話を聞きに行き、蓮と睡蓮を分けていただいて、校内のビオトープで栽培しています。 学校は子どもを教育する場ではありますが、地域のシンボルとしての役割もあると思っています。今後子どもや学校を中心にして、この新しい土地に地域コミュニティが生まれたら嬉しいですね。

屋上の緑化スペース
屋上の緑化スペース

――異学年交流が自然に行われている環境ですね。

井上先生:先ほどもお話したように全校生徒18名からスタートしている学校ですので、とにかく家庭的な雰囲気があります。1~2年目はランチルームで全校生徒が一緒に給食を食べていましたし、昨年度は3学年、今年度は2学年合同で行っています。 また毎日の掃除も縦割り班で行なっています。

複数の学年が集まれるランチルーム
複数の学年が集まれるランチルーム

縦割り班で行う全校遠足では6年生が1年生の手を引いて、「多摩動物公園」まで電車に乗って行ってきました。園内の行動もお弁当もすべて一緒で、6年生は張り切って先導していましたよ。 6年生は自分たちが幼い頃に優しくしてもらったこと、つまり自分が年長者からもらった優しさを次は下の子どもたちに渡していく。そしてそれをもらった子どもたちは、次の世代に渡していく、綿々と優しさのバトンが受け継がれていくのです。こんな風に自然な交流のなかで年長者は年少者を可愛がり、やさしい気持ちで面倒を見て、年少者は憧れの気持ちで年長者を見るという理想的な関係が築けていると思います。

読書を通じて「静かで落ち着いた気持ち」になる

様々な本が揃う図書室
様々な本が揃う図書室

――広くて明るい図書室は、たくさんの子どもたちが利用しているのでしょうか。

井上先生:本校では読書に力を入れていまして、週に2回、読書月間中には週3回、朝読書の時間を設けています。本好きな子どもは、自分の好きな本をどんどん読み進めていますし、最初は本選びに時間がかかったり、なかなか読書には入れなかったりした子どもたちでも、「静かに本を読む」ということが習慣づけられて、今は夢中で活字を追う姿が見られます。そんなことから朝読書に読む本を選びに、子どもたちはしょっちゅう図書室に訪れているようです。 また学級文庫には稲城市から年間100冊を借り受けているので、子どもにとってはたっぷり選択肢があり、興味が尽きなくていいですね。これは年度が変わると返却し、翌年度にはまた新しい100冊を借りられるので、読書に力を入れている本校としては嬉しいシステムです。

また「わくわく読書」という先生や子どもたちによる読み聞かせの時間は、教室の扉が開くまで誰が本を読みに来てくれるかわからない、お楽しみの時間になっています。先生方は自分の担任ではないクラスを訪れて本を読むので、もちろん校長の私も自分で絵本を選んで、読みに行きます。5年生が4年生の教室に行くときもありますし、得手不得手、男女関係なく読み手として本を読み聞かせる経験をしています。

コンピュータールームと図書室がつながっている
コンピュータールームと図書室がつながっている

授業での調べ学習にはコンピュータルームも使うのですが、扉を開けると図書室とつながるようになっています。コンピュータルームとつながる部分の図書コーナーには、調べ学習にも役立つような書籍を集めて展示して、子どもたちの情報収集に役立ててもらっています。子どもたちは時にはインターネットを、そして時には文字情報を駆使しながら知識を集め、理解を深めているようです。

――地域の方々との関わりについて教えてください。

井上先生:本校では昨年まで「日本の伝統文化」を学ぶ授業があり、浴衣の着付けや俳句、百人一首、昔遊びなどを経験していました。またお茶の授業では、図書室の畳敷きの小上がりで、実際にお茶をいただいたく体験もしています。これらは基本的に全て稲城市内の地域の方々がの先生として来てくださっていて、地域の人材資源の活用につながっています。稲城市の方々は非常に学校教育に協力的で、とても気持ちよく講師を引き受けてくださるので助かっています。

図書室の畳敷きの小上がり
図書室の畳敷きの小上がり

この他にもお能の体験授業があり、能の喜怒哀楽表現を教えていただき、実際にその所作をやってみるというちょっと普段では体験できない珍しい授業もあります。この先生も、以前から稲城市内の学校に来てくださっていた方で、新しい学校の本校でも引き続きご協力いただけるのは本当に嬉しいですね。今後も地域の方々には学校に足を運んでいただき、こうした体験授業は残していく予定です。

子ども・学校を中心に、保護者や地域がつながれるように

「稲城市立南山小学校」の校庭
「稲城市立南山小学校」の校庭

――保護者の方々との連携はいかがでしょうか。

井上先生:現在はまだPTA組織はなく特定の活動をしているわけではありませんが、保護者の方々はみなさん学校の教育活動に非常に意欲的かつ協力的です。学校に足を運んでいただく機会を増やそうと月に1回は土曜公開授業を開催し、保護者の方同士も顔見知りになってつながっていただきたいと思っています。

「災害に強い学校」としての役割を果たすため、年に1度あえて土曜日に防災訓練を行って保護者や地域の方々に参加していただいています。消防署の隊員の方にご協力いただき、子どもたちが「煙体験」や「消化体験」などを経験する機会を設けています。また保護者の方々には備蓄倉庫にある災害用の「アルファ米」の炊き出しをしてもらったり、体育館を避難所仕様にするデモンストレーションなどをお願いしたりしていますが、皆さん気持ちよく引き受けてくださって訓練にも積極的に参加してくださいます。

屋上から眺める校舎の様子
屋上から眺める校舎の様子

年に1度は実地に基づいた訓練を行うことで、いざというときに役に立つ知恵を子どもや教職員だけでなく、保護者や地域の方々のなかにも蓄積していきたいと考えています。積み重ねが大切ですからね。本校は防災機能が強化された学校で良い環境が整っていますので、これは今後も続けていきたいと思います。

――最後にこの街の魅力について教えてください。

井上先生:ご覧のとおり、現在開発が進んでいる街ですので、これから出来上がっていく発展途上の楽しみがある街だと思います。大きなスーパーマーケットや保育園も完備されていますし、余裕のある造りになっていて利用しやすい雰囲気があります。開発は進めながらも、残すべき自然はきちんと残すという考え方が浸透していますので、緑が豊かで子どもが育てやすい穏やかな環境が整っていると思います。

学校の隣に現在造成中だという公園も、今の雑木林の風情は残しながら誰もが集える公園になるそうで、どんな公園になるのか子どもたちも楽しみにしています。 また屋上からも見える「よみうりランド」と本校の間に、読売ジャイアンツの2軍・3軍球場が建設される予定で、グランドだけでなく商業施設なども併設した地域の憩いの場「TOKYO GIANTS TOWN」ができるそうです。このように次々と新しい施設ができてくる楽しさがあり、将来性のある街でもあります。

住んでいる方々は稲城市内外から集まって来ている方も多いので、お互い「はじめまして」の関係で、協力し合って街をつくろうという気持ちが強いのではないでしょうか。保護者のコミュニティ、地域のコミュニティ共々、これから新たにつくっていく大変さもあるかもしれませんが、もともとあるコミュニティの中に飛び込んでいくのとはまた違った楽しみもあるかと思います。そのコミュニティ形成の中心に本校があって、皆さんをつなぐ役割を果たせたら嬉しいですね。

稲城市立南山小学校

校長 井上央先生
所在地:稲城市矢野口3635
電話番号:042-370-0373
URL:http://academic4.plala.or.jp/ina-mi01/
※この情報は2018(平成30)年7月時点のものです。