インタビュー

日本文化と自身のルーツに新しい感性を融合させ、“暮らし”を発信/組む 東京 店主 小沼のりこさん

東神田・馬喰町界隈は多くの問屋が軒を連ね、“日本一の問屋街”とも言われている。その大通りから少し入った場所にある「組む 東京」は、60年以上前に建てられたコンクリートビルをリノベーションしたという、新旧入り交じった雰囲気がひときわ目を引くギャラリーショップ。2015(平成27)年オープンし、和の伝統技術を用いながらも現代の生活にマッチする生活雑貨などを多く取り扱い、イベントなども積極的に開きコミュニティスペースとしても機能している。
この店の店主は、この場所を父方の実家に持つ小沼のりこさん。学生時代は日本の美術史を学び、その後も美術展示やデザイン等の仕事に長く携わってきたという、感性の高い女性だ。今回は彼女がこの店に託した想い、地域に対する愛着や魅力について、色々とお話を聞くことができた。


“どこか懐かしい”という感覚から育った、日本文化発信への思い

「組む 東京」外観
「組む 東京」外観

――小沼さんが日本文化やものづくりに興味を持たれたきっかけと、「組む 東京」をスタートされた経緯や理由についてお聞かせください。

小沼さん:ものづくりに興味をもったそもそものきっかけは、幼い頃に住んでいた日本家屋の思い出が鮮烈にあったからだと思います。そこは小学校に入学するくらいまで住んでいた新富町の家で、漆喰壁、畳敷きで、お庭があるような造りでした。小さな頃ってやっぱり、壁に落書きとかしちゃいますよね。その時の、鉛筆で書くシャリシャリとした音だとか、漆喰の感覚、触った時の冷たさなどがすごく記憶に残っているんです。たぶんそうした、どこか懐かしいような感覚が潜在的に好きで、それに近いものを探していったんだと思います。

オーナーの小沼さん
オーナーの小沼さん

“物が作られる背景”といいますか、精神文化的なものにとても興味があり、そうしたものに触れたり見たりということは、学生時代からよく行っていました。大学では美術史や日本美術について勉強していましたし、大学院はイギリスの大学に進学して、ディスプレイデザインなどについて学びました。日本に戻って仕事に就いてからは、キュレーター(=展覧会の企画・構成・運営などをつかさどる専門職)として美術展関連の仕事をし、子育てを機に一旦は離れたのですが、その後父が経営するメーカーのデザイン部門に入り、そこでも10年ほどディスプレイデザインなどの仕事に関わりました。
そうした中で、同じような関心や興味を持った人や、ものづくりをする人たちとの接点が生まれ、知り合いになっていき、段々と「自分で発信をしてみたい」という思いが膨らんでいったんです。その時に、この場所があることを、ふと思い出しました。

一見きれいで新しいように見える店内。スイッチなど細かい部分に懐かしさが隠れている
一見きれいで新しいように見える店内。スイッチなど細かい部分に懐かしさが隠れている

――その「発信」の舞台として選んだのが、先祖代々の土地に建つ、こちらのビルだったわけですね。

小沼さん:このビルは私の祖父が建てたもので、ずっと仕事場として使われてきました。その後、叔父叔母や私の父も、時々は仕事に使っていたのですが、私自身はほとんど入ったことがありませんでした。
2~3年前に、私がこのお店を作ろうと思い立ったことをきっかけに片付け始めました。最初は物が沢山あって、部屋の本当の広さも分からない程だったのですが、その大量の荷物の中から1枚の半纏(はんてん)が出てきたんです。
これは曽祖父の時代のもので、おそらく大正期から昭和初期だと思いますが、当時はここで大八車(だいはちぐるま)を作っていたようです。当時この半纏を持っていけばツケで飲めた、という話もあったそうですから、名刺代わりのようなものだったんですね。このビルですら無かった時代ですし、空襲などもあった場所ですから、まさかこんな半纏が残っていて出てくるとは思いもせず、とてもびっくりしました。ここにそうした歴史があったということも、初めて知りました。お店を開く場所は他にも選択肢があったのですが、ここが私のルーツでもあるので、この場所を何とか再生したい、という思いがますます強くなりました。

開店準備で見つかった曾祖父の時代の半纏
開店準備で見つかった曾祖父の時代の半纏

――そして2015(平成27)年、「組む 東京」をオープンされたのですね。店内はどのような造りになっているのでしょうか?

小沼さん:1階はセレクトショップのように、通常は作家さんの作品を販売するスペースになっていますが、月に一回程度、スペースの半分程使って、特定の作家さんの展示を行ったりしています。販売についても、私一人だけではなくて、出品している作家さんたちなど色々な仲間に手伝ってもらって成り立っているのが「組む 東京」のスタイルです。
2階は通常はブランクですが、展示の企画ごとに、様々な用途に使用しています。たとえば、先日はお正月のしめ飾りを作るワークショップをやりましたし、1階で器の展示をしている期間には、その器を使ってドリンクやデザートを提供したりもしました。他には作家さんのトークショーなども行います。また年に1回ですが、高座を作って「落語の会」も開いています。そんな具合に、多目的に、コミュニケーションが生まれるような場所として使っていますね。また、普段はストックに使っている地下室もあり、特別な要望があれば、ここでワークショップをやることもあります。

1階のセレクトショップ
1階のセレクトショップ

――小沼さんが「組む 東京」の商品や展示企画等を通して、伝えたいこと、発信したいことは何でしょうか?

小沼さん:今はインターネットを使って、情報が気軽に手に入る時代です。私自身ももちろん活用していますが、そういう便利なものを活用しながらも、リアルに「接する」「出会う」「感じる」といった、感覚的なものを大事にしたいという思いがあります。そうした感覚を伝えていきたいですし、もっと言えば、この「東東京」に居ながらにして、世界とつながっていけるような活動をしていきたい、とも考えています。

2階の企画展示の一例
2階の企画展示の一例

――“世界とつながる”とは、具体的にはどのようなイメージなのでしょうか?

小沼さん:世界の文化圏には、様々な人がいて、様々な習慣、物、食べ物があって、自分とは違うけれど、それぞれが本当に豊かで、素敵で、リスペクトするべきものだと思うんです。そうした違ったもの同士が、エネルギーを交換するような場づくりも、「組む 東京」のコンセプトとしています。

ここで「発信」したいことは、日本文化の素敵なところ、豊かなところ、です。“日本のDNA”とも言えるでしょうか。それを国内だけではなく、海外に向けても伝えていきたいと思っています。それは特に誰をターゲットにするわけではなくて、国内外、誰でも共有して、お互いシェアしましょうよ、という感覚です。

ものごとの機微に気付ける暮らしを提案

――展示販売している作品のコンセプトやセレクトの基準は何でしょうか。

小沼さん:敢えて言うならば、「日本的なスピリットが生かされたもの」だと思います。伝統的に、例えば何百年も守られてきた技術を用いながらも、その“まんま”の商品ではなく、それを生かして、今、生活のためにどのようなものが作れるのか、ということを提案している商品が多いです。言い換えれば「研ぎ澄まされたもの」ですね。饒舌ではなく、簡素にしていく中で豊かさを感じられるもの、を自分の基準にして選んでいます。

器や小物の他に、服飾雑貨もある
器や小物の他に、服飾雑貨もある

――日々の生活で使用する雑貨も多いようですが、どのような“暮らし”を提案していきたいと思いますか?

小沼さん:なかなか言葉にするのは難しいのですが、“気づいている暮らし”とでも表現すれば良いでしょうか。多様な物事について、自分のセンサーが“気づける”チャンネルに合っている、という幸せがあると思うんです。昔の日本家屋の話もそうですが、五感を通してふとした部分の機微を感じられるというのも、幸せの一つだと思います。そういう、チャンネルが合っていないと気づかないような、すごく微細なことを感じられる幸せを伝えていきたい、と思っています。

世の中には奇をてらったり、格好良さを目立たせた物も沢山あると思いますが、私はむしろ、「これって本当にデザインしているの?」というぐらいの、さりげない物だけれども、よくよく見ると「あ、ちゃんと作られているね」というような物が好きなんです。そこには、「ちゃんと考えられていないと、決してこうしたデザインにならない」という合理性があると思っています。例えば、器でも、口が当たったときに「あ、なるほどね」と感じる瞬間があります。そうした感覚を大事にして生きていったほうが、面白いんじゃないかなと思うんです。

真鍮のカトラリーや箸おきなど
真鍮のカトラリーや箸おきなど

新旧が調和した街とのつながり

――この街から影響を受けることはありますか?

小沼さん:もちろん近隣の方にも来ていただけるように商品や展示を考えていますが、どちらかというと、地域に向けてというよりは、この場所を通して、街が新しい形で元気になればいいな、と考えています。
町内の人を集めてお祭りをしたり、餅つきをしたりということは、町内会が昔から行っているので、そこには私も参加者として関わっています。そうした動きとはまた別に、この一帯の新しいお店で、横につながり、一緒になって地域のマップを作ったり、イベントを開催したりしています。そうしたことを通じて、街の外からも人が来て、街がさらに元気になって、「なんだか馬喰町って活気があるね」と思ってもらえれば、それもまた、この地域への貢献なのではないかと思います。
この街の魅力は、「外から新しくやって来たクリエイティブな人たちが、地域に元々あるリソースにリノベーションをかけ、古いものを生かしながら、今の時代に合った新しいものを提案している」という部分だと思いますから、そこは、地域の特性に大きく影響を受けていると思います。もちろん私もその一人でありたいと思っていますので、祖父母たちのかつての精神は受け継ぎながらも、時代に合った変化を加えながら、自分の世代ができることを発信していきたいと思っています。

お米やしめ飾り、枡など伝統的な商品
お米やしめ飾り、枡など伝統的な商品

――小沼さんが感じる、東神田・馬喰町エリアの魅力とは何でしょうか?

小沼さん:ここは地域のコミュニティがしっかりとしているところなので、ご近所の人たちみんなが、何かあると声を掛けてくれて、助けあう雰囲気がありますね。昔から住んでいる方々が沢山いて、そこに新しいマンションができ、新しい人たちが入ってきて、それに伴い新しいお店などもできて・・・というのが近年の動きですが、そんな中、新旧が一体となり、本当に「街」らしく支えあって、一緒に暮らしているというムードがあります。大きな資本が入るのではなく、個人個人のレベルでそのように街が変化しているのが、この地域ならではの特長だと思います。
また、以前はスーパーマーケットなどが近くに無く不便だったのですが、今は環境が良くなり、「暮らす街」としても魅力がずいぶん増してきたと思います。東京の西側エリアのオシャレ感ともまた違った、東側ならではの、ローカルな、気楽に声を掛け合えるような、そんな温かさがある街ですね。

――最後に、東神田・馬喰町エリアにこれから暮らしたいという方に向けて、メッセージをお願いします。

小沼さん:ここはビジネスや商業目的の地域とはまた違った、人が暮らすコミュニティとしての、すごく可能性を秘めた街だと思います。自然発生的に、志のある人達が集まって、支え合って、「みんなで雰囲気を良くしようよ」という心意気がある街です。ですから、昔から住んでいる方も、新しく引っ越して来た方も、老若男女がみんなが仲良く、一緒に楽しめるような街になっていけばいいなと思っていますし、私達もその役割を担っていければ、と思って頑張っています。そんな素敵な街ですから、ぜひ一度お越しください。


感性を研ぎ澄ませる雑貨を扱うギャラリーショップ「組む 東京」
感性を研ぎ澄ませる雑貨を扱うギャラリーショップ「組む 東京」

組む 東京

店主:小沼のりこさん
所在地:東京都千代田区東神田1-13-16
TEL:03-5825-4233
URL:http://www.kumu-tokyo.jp/
※この情報は2016(平成28)年12月時点のものです。